デジタルプリント et cetera

ジークレー(Giclee)、ジクレーまたはジクレ。機械の名をとってアイリス(IRIS)とも呼ばれていますが、ぶっちゃけた話、ドラム式の業務用インクジェットプリンターによる高解像度の打ち出しです。

アイリスプリンター自体は本来色校正用に開発された機械だったのですが、原画に近い出力が可能なために美術館・博物館用の複製製作としても利用されるようになり、更にアメリカのハーベスト社の設立をきっかけとして、複製画の技法として一般化しました。
アイリスプリンターというのは当時一台1,500万円もする超高価な貴重な機械で、アイリス・ジクレがある程度値が張るのは仕方のないことでした。
しかしその後、競合他社がデジタル複製画を次々開発。アイリス以外のプリンターで出力したものも「ジクレ」と呼ばれるようになったのですが、やはり品質にはピンからキリまでありまして。高額で粗悪な複製画が市場に出回った為、「ジクレ」の名称はちょっとイメージが悪くなりました。

その為か、最近は業務用インクジェットプリンターで製作された複製画には別の名称を付けることが多いようです。
今のところ、「プリマグラフィ」というのが一番ポピュラーかな。ちなみにエプソンは「ピエゾグラフ」、キャノンは「イメージプログラフ」で商標登録しています。

尚、昔の元祖アイリスジクレは水溶性染料インキ使用なので、湿気に弱く褪色もします(近年は改良)。「プリマグラフィ」は耐水・耐光性特殊顔料インキ使用です。単に「ジクレ」といっても、内実はピンキリ。


そんな訳で、以前はそれなりの製造工賃のかかった高品位インクジェットプリントですが、21世紀に入ってからは、リーズナブルで高性能のプリンター(エプソンのMC-10000が2001年発売当時139万8,000円)が普及して、かなり安価に製作できるようになりました。
ポスターサイズ以上の大判プリントを出力できる工房は未だ限られているので、それなりに高い工賃がかかりますが(あくまでも「それなり」ね)、小さなものは相当気軽に製作できます。

ご参考までに、大手出力センターの価格表

ところでこの株式会社アムゼさんは松本零士の高額複製画を企画販売している株式会社アートスペースのデジタル部門からジークレー版画工房として独立した会社なんですが、

版画の大手販売会社では、リトグラフやシルクスクリーンよりもジークレー(ジクレー)の販売数が上回って来ています。
それは、ジークレーの最も重要な特徴である少部数からの刷りが可能なことが第一の要因です。

 

…などとおっしゃってます。

実際のところ、ジクレの販売数が増えている一番の要因は、ビバンやアーチのような新興インテリアアート屋が、強引な販売方法で物の良し悪しのわからない客に大量のポスターまがいの額装複製画を売りつけてるせいだと思うんですがね。

ちなみに 大型アートポスター販売サイトAllPosters.com.では、

アンディ・ウォーホル『マリリン, 1962』
 ジクレー (97 x 122 cm額なし)\ 25,030
 同絵柄の高級ポスター(61 x 81 cm)\ 4,010

マルク・シャガール『モーツァルトの魔笛』ジクレー
 \ 7,150(46 x 61 cm)、
 \ 11,450(61 x 91 cm)、
 \ 17,170(81 x 112 cm)



ジクレは水彩の再現に優れているので、海外でも水彩画家が自作の複製画に採用したりしてます。
たとえば カリフォルニアの Geri Medway という花の水彩画家の場合、

Original Watercolor: 22 x 30 - $ 1800.00
Giclee L.E. Print 325: 15 x 20 - $195.00

Original Watercolor: 18 x 24 - $ 1295.00
Giclee L.E. Print 195: 18 x 24 - $ 250.00

おおよそ原画の1/10程度の値段で、25,000円前後(額無し)。このあたりが相場でしょう。

これが本邦の悪徳業者が販売するノーマン・ロックウェルのジクレになると、

額付きで98,000円 + 送料1,000円(税別)

原画提供者は故人だから、当然サイン無し。


(このロックウェル、印刷はアメリカの業者がやってるから、工賃に大差はないはず)
…やれやれ。

私も一枚プリマグラフィを持っているのですが、綺麗ですよ、とても。
ジクレをオリジナル版画と偽って非常識な金額で押し売りする業者や、それに乗っかる馬鹿漫画家達さえいなけりゃ、技術の進歩に惜しみない拍手を贈りたいくらいです。


まんがじゃぱん公式サイト内活動記録ページの1997年2月5日のところに、「東アジアMANGAサミット原画展」で、
原画保護のため高精度カラーコピーで額装することに決定。
という記述があります。
どうやらここでヘンな画商に食いつかれたらしい。でもこの時点では、ちゃんと高精度カラーコピーって認識してたのにね。


業務用の機械ってのは高価なものだし、メンテにも費用がかかる。
高額な特殊インキを使用するので、通常印刷より原価はかかる。
データ量が膨大で色校正も大変。
高解像度で打ち出しに時間もかかるので、それなりの製造工賃を上乗せするのは当然。
額絵なんてものは薄利多売がきく商品じゃないから、利幅が厚いのも許そう。

… しかし、1000歩譲ったとしても、何十万円もの値札をつけるのは、クレイジーです。
大体、ジクレは他の版画作品の10分の1以下の経費で準備ができるってのがウリなのに、マトモな版画作家のオリジナル作品より高いって、どういうことよ。

業界の人がいうには、近年大手出版社がよく額装ジクレを販売するようになったのは、馬鹿漫画家と詐欺現代アート屋に対する牽制なんだそうです。
皆様も、漫画家のデジタルプリントを買うなら、変な現代アート屋ではなく、適正価格のものを選びましょう。
…漫画家自身がおだてにのって、詐欺アート屋と独占契約を結んでたらアウトですけどね(泣)。