蜘蛛之巣城

てとりあしとり

偽版画WORLDのページを設置して二週間、嬉しいメールが届きました。
東京都調布市のリトグラフ工房、イタヅ・リトグラフィック版画工房さんからのリンク報告です。

ぼったくり現代アート屋のデタラメな商売で一番ワリをくっているのは真面目に作品製作をしているオリジナル版画家と製作工房であろうに、何故彼等はこの状況に対してきちんと発言・啓蒙していかないのだろう…と常々思っていたのですが、 板津さんのサイトで刷り師の立場からの明確で詳しい解説をいただきました。

ウチのサイトの説明より専門的で詳しいので、ぜひ御一読を。Print Documentationは日本でも義務付けるべきだよなー。


板津さんは、自宅の工房で製版から刷りまでの全工程を、全てお一人でこなしておられる職人さん。

私のサイトの記事は、複製版画とオリジナル版画の区別も知らず、単なる複製版画を非常識な値段で売りつけられているド素人に対する啓蒙が第一の目的なので、わざとオリジナル版画の定義を「自刻・自摺り」と単純化していますが、実は版画の現場ではもっと複雑。

「アーティスト」と綿密な打ち合わせの上で、「アルティザン(職人)」がアーティストの意思を完全に反映して製作した版画も、オリジナル版画に準ずるものとしてあつかわれているんです。

アーティストが、版画技法を用いて自分の美の世界を表現したいが、自分で製版するより腕のいい職人と組んだ方がクオリティの高いものができる、と判断して工房とタッグを組む場合も多い。シャガールのソルリエ版なんかが有名ですが、日本人には浮世絵の絵師と刷り師の関係が馴染み深いでしょう。

板津さんの工房作品では、アーティストが版に直接絵を描いて(自画)、その後の製版と刷り工程をアーティスト立会いの下でアルティザンが行う、というパターン。


版画技法を「芸術表現」の為に使用するのがオリジナル、「広く頒布する」為に使用するのが複製。でも現実はそうスッパリ分けられるものでもなく、例えば日本画の大家のエスタンプの扱いなどについては、画商も色々迷いがある。

そういう状況につけこんで、シルクスクリーンとセリグラフとリトグラフの違いすら分からない無教養な漫画家やイラストレーターをおだて上げて、数百エディションのポスター同然の額装複製画を製作し、道行く気の弱そうな若者をイベント会場に引っ張り込んで、高額のローンを組ませて無理やり売りつける…という商売が成り立ってる訳です。

これからはウチのサイトでも、アールビバンのシャガール(油絵作品のエスタンプで、Total ED:1090だって。千枚も刷って「限定」とか言うな~!それじゃポスターだっつーの!!) の話などとからめて、突っ込んだ話をしていくつもりです。


ここからは版画関連の雑談。

実は私の勤め先のオフィスには、ヒロ・ヤマガタのシルクスクリーンがあります。
PC操作でショボついた目を少し上に向けると、視線の先にはヤマガタの腐れハッピーな絵が(泣)。
それだけならまだいい。連日の残業でこわばった首を横にひねると、そこにはラッセンの額装ポスターが(オマケでもらったらしい)。

日本人の美意識からは著しくかけ離れたコテコテな塗りの、偏執的に細部まで描き込まれたイルカの画を見るにつけ、疲労感倍増。誰だコイツを「癒し系」とか言いやがった奴はっ。
「来客にナメられるから、外しましょう」などとは言えない、悲しき雇われの身分です。しくしく。

ヤマガタのシルクって、確かに技術的にはすごいんですよ。100色以上の色を使ったきっちりした仕上がりで、流石に日本人は几帳面だなーと、見るたび思う。
…でも、技術に感心するのと芸術に心をつかまれるのって、全然別のことだから。
くらべちゃイカンとは思うけど、ウォーホールのシルクなんて4色くらいしか使ってないし。色数が多けりゃエライわけじゃない。


とは言うものの、ヤマガタやラッセンがバカスカ売れたのは、よく分かる。売りやすいんだもの。

本来、版画は絵画購入の入門編として最適なはず。価格は比較的安いしサイズも大概は小さいから、マンションの壁にも飾りやすい。シートで購入してファイルに保存しておいて、季節ごとに額に入れ替えて楽しむことも出来るし。自分のペースで気軽に楽しめる、カジュアルなもののはず。はずなの!本来は。

他方、ビバンとかのインテリアアートって、馬鹿高くて、クソでっかくて、額装済みのものを、ご大層なもののように言われて売りつけられる。
…でも日頃絵画に縁のない人間にとっては、ビバンの売り方のほうが「金を出しやすい」


オリジナル版画って、紙と版とインクのハーモニーから生まれる「味」を楽しむものなんだけど、その「味わい方」を初心者に分かりやすく説明するのは難しい。

いや、ホントは簡単なのよ。「自由に解釈して楽しめばいいんだよ」「あなたの気に入ったものを、予算の範囲内で選べばいいんだよ」って。
でも大多数の日本人は、与えられた「自由」を使いこなせない。


だから、すんごく分かり易い画題で、「通常のシルクと違って100色以上使ってるんですよ」「こんなに細かいところまで描き込んでいます」「アメリカ大統領もファンなんです」、挙句「テーマは癒しです」と、あらかじめ「正解」を与えてもらった方が、安心する。

「絵の解釈くらい自由にさせてくれ」と、私なんかは思いますけどね。


バラエティ番組で誰かが面白い事を言うと、テロップで強調して「ココが笑いどころですよ」と誘導してくれたり、新作映画やドラマの特番で、懇切丁寧に「隠された見所」や「作品のテーマ」をあらかじめ教えてくれたり、サスペンスドラマのラストで犯人が延々自分の犯行の細部までベラベラと自白したり。そういう文化の中で生きてますから、私たちは。

ビバンにカモられてる人を啓蒙して目を覚まさせてやっても、その人がオリジナル版画の購入客になる可能性は限りなく低いでしょう。

ぼったくりアート屋というのは、そういう時代文化に咲いた仇花な訳で。だからある意味、「現代をビビッドに反映した芸術」と言えない事もない…かも(笑)。