蜘蛛之巣城

ローズマリー・ロジャーズとbodice-rippers小説

Sweet Savage Loveシリーズ

ポール・シェルダン作『ミザリー(映画版の作中作の方ね)』のモトネタとおぼしき、ローズマリー・ロジャーズのSweet Savage Loveシリーズに興味がわいたので、ちょっと調べてみました。

第一作目の発行は、1974年。 結構前ですね。
以降シリーズ化して、

  • Sweet Savage Love (1974) 甘く野性的な恋
  • Dark Fires (1975) 暗い炎 (ジニイの章) 上 下 暗い炎 (スティーヴの章) 上 下
  • Lost Love, Last Love (1980) 失った愛、永遠の愛 上 下
  • Bound by Desire (1988)
  • Savage Desire (2000)

シリーズ最終巻(?)が2000年刊行、各巻とも何度も復刊されている上、オーディオ版(朗読?)まで出ている人気作です。


英語サイトを検索してみたら、「レイプファンタジー肯定 (defending rape fantasies) ロマンス小説」の古典として、批判的な作品紹介をしているページがありました。

そのサイトによる、ストーリーの簡潔な説明。

Virginia "Ginny" Brandon getting forcefully seduced and even raped and rescued from trouble non-stop by this half-breed hero Steve Morgan. There are many adventures in here, mostly tedious dime-novel scenes interspersed with sex.
(ヴァージニア "ジニィ" ブランドンが、混血のヒーロー、スティーブ・モーガンに力ずくでたぶらかされて、レイプまでされた上に、ひっきりなしに厄介ごとに巻き込まれては救い出される。作中の見せ場の大半は、うんざりするような三文小説的場面にセックスが散りばめられただけのシロモノ)


tediousは、「長ったらしくて退屈な, あきあきする, つまらない」という意味の形容詞です。

キャラクターの説明がまたスンバラシイ。

Steve Morgan, the king of date rapes.
(スティーブ・モーガン、デートレイプの帝王)

ヒロインの事は、

the poster girl for Stockholm syndrome.
(ストックホルムシンドロームの典型)
Of course, pair a commitment-phobic rapist with a co-dependent gerbil-brained woman and the relationship is a spectacular catalogue of dysfunction.
(もちろん、コミットメント恐怖症のレイプ犯と、共依存症のスナネズミ脳女をつがいにすれば、機能障害の壮観なカタログの出来上がりです。)

んーんー、ここまで凄いと、かえって読んでみたくなるなぁ。

甘く野性的な恋

Amazonのあらすじ欄を読むと、

一作目 甘く野性的な恋

Ginny Brandon is swept from the ballrooms of Paris to the desert sands of Mexico and into the arms of charismatic mercenary Steve Morgan. But this fearless heroine and "hero of all heroes" must first endure countless unforeseen dangers before they can enjoy sensual, exhilirating passion that burns between them.
(ジニイ・ブランドンは、パリの舞踏会場からメキシコの砂漠に連れ去られ、超人的な傭兵スティーブ・モーガンの腕の中に収められた。しかし、この恐れ知らずのヒロインと「ヒーローの中のヒーロー」が、彼らの間に燃え上がった、官能的で刺激的な情欲を堪能する前に、まず無数の思いがけない危機を耐え忍ばなければならない)

…いきなり拉致ですよ、奥さん。

誰に拉致られたの?この「ヒーローの中のヒーロー」?

付記)調べてみたら、やっぱし犯人は「ヒーローの中のヒーロー」でした(笑)。色恋沙汰ではなく、政治目的だけど。

暗い炎

そして二作目。暗い炎〈ジニイの章〉』
邦訳前編のあらすじから引用。

(略)スティーヴに事情も告げられないまま公爵のもとへ赴いたジニイは、そこで思いがけぬ話を聞いた。彼女は実はロシア皇帝の娘で、しかもスティーヴとの結婚は無効だと。

一作目のラストで二人は結婚したようです。しかし結婚に難癖がついた上に、はい出ました、「実はロシア皇帝の娘」。


後編いってみましょう。

(略)カールからうけた辱めと暴力、そこから救ったとみせかけて、ジニイとの結婚をせまったサルカノフ公爵。今は、公爵夫人となったジニイは、責めようともしないスティーヴに、かえって深く傷つくのだった。そのあくる日、二人きりで森へ出かける。もう、愛されていないと思っていたジニイを激しく求めるスティーヴ。

「辱めと暴力」って、やっぱりレイプ?
そして悪玉との強制結婚、本カレとのアオカンの三連コンボ。


暗い炎〈スティーヴの章〉

熱病から記憶喪失になったスティーヴは、その看護をしてくれた女、テレシータと結ばれる。遠いテキサスまで、はるばる探しにやって来たジニイとの再会にも、まるで見知らぬ他人に会っているかのようなスティーヴ。愛と情熱に彩られた二人の思い出が、すべて無になってしまうのだろうか…(略)

出た!長期メロドラマシリーズ伝家の宝刀「記憶喪失」!
「愛と情熱」と書いて「レイプとバイオレンス」とルビを振るんですか?

失った愛、永遠の愛

三作目。失った愛、永遠の愛

(略)二人の間からはわだかまりがぬけず、スティーヴの態度もどこかよそよそしい。そんなある日、スティーヴは彼女を娼館に連れこむのだった。

「娼館に連れこむのだった」と冷静に言われましても(笑)。

後編では、

義理の母ソニヤはスティーヴの愛人だった!ジニイはスティーヴと別れる決心をすると、ひとりメキシコに旅立つ。その傍には、ジニイを自分のものにしようとするアンドレがいた。が、突然の大地震で失明してしまうジニイ。スティーヴは彼女が死んだと聞かされるや、アンドレを追い、決闘の末、彼を殺す。(略)

出た!長期メロドラマシリーズ伝家の宝刀「失明&死んだはずだよヒロインは」!

レイプだの殺人だのがなければ、韓流か往年の上原きみ子の少女漫画のようです。
つか、この状況からどうやったら相思相愛のハッピーエンドになるのや。

南北戦争直後のアメリカ南部を舞台に、淑女と娼婦のふたつの顔をもつヒロイン、ジニイとスティーヴの愛と憎しみのドラマ「甘い野性の恋」の完結編。

ということですが、原書では更に二冊あるようです。

bodice-rippers

次から次へと自分から厄介ごとにクビを突っ込んでいく馬鹿女が、自分を拉致監禁した上暴力で処女を奪った鬼畜男にメロメロになって、ピンチに陥って救い出されては激しいセックス!というルーティンを繰り返した末に、その男と「これも愛なのね」でハッピーエンド…というレイプ願望タレ流しのガイキチなロマンスは、既にアメリカの70年代からあったのですね。


そして、アメリカではこの作品以降、「時代物レイプロマンス小説(俗語でbodice-rippers)」というのが、ジャンルとして定着してしまったらしい。


ちなみに、 80年代刊行の『ロマンス作家は危険』(オレイニア・パパゾグロウ作)という、ロマンス出版界を舞台にしたミステリの原題がSweet, Savage Death。その続編『クイーンたちの秘密』の原題が、Wicked Loving Murderで、これもロジャーズの別作品Wicked Loving Liesのパロですね。
パロられるというのはポピュラリティの証ですから、Sweet Savage Loveは、「女性向けエロ時代小説」の代名詞、エポックメイキング作品と言ってよいでしょう。

しかしこの「拉致監禁レイプロマンス」には、20年代に更に原型となる有名作品があったのでした…というところで、次回に続く。

付記1)bodice-rippersの元祖はKathleen E. WoodiwissのThe Flame and the Flower(炎と花)だが、その路線を過激に推し進めたのがロジャーズ、ということらしい。
付記2)その後ぜんぜん別件の調べ物をしていたら、USA Todayの記事内でハーレクイン社が「The 60-year-old publisher of classic bodice-rippers(創業60年の古式蒼然たるボディス・リッパーズもの出版社)」と書かれているのをみつけた。
bodice-rippersという俗語は今では時代物以外にも対象が拡大して「ゴーマン男×踏みつけにされるヒロイン」くらいの意味になっているのかしら。
付記3)日本でも2009年に官能小説界の雄・フランス書院が「キスだけじゃ終わらない、新・乙女系ノベル」を謳い文句に若い女性向けの18禁ライトノベル・レーベル「ティアラ文庫」を創刊。その後他社からも続々とTLライトノベルが出る事になるのだが…
TL小説は現代日本が舞台のものもあるが、主力商品は「17~19世紀ヨーロッパ貴族社会を舞台にしたコスチュームもの」。よーするに、日本版ボディス・リッパーズ。女性のセックスファンタジーに国境はないという事か。

ポール・シェルダン作ミザリー

ところで、売れない純文学作家やジャーナリストが、ペンネームを使ってゴシックロマンスやハーレクインを書くことはよくあるらしい。

以前読んだ雑誌記事に、ハーレクインロマンスの作者の何割かは男性作家で、出版契約を結ぶ際に女性名のペンネームを使用の上、絶対に男性と明かさないこと、という取り決めがされるのだという記述がありました。

ポール・シェルダンは、男性名で出版した上、著者近影まで載せちゃったのがウカツでしたな。


S.キングの『ミザリー』は、アニーに脅されて嫌々ながらも書かされる、殺しちゃったヒロインの復活続編という難事業にやがて没入していく、ポール・シェルダンの作家の業が面白いのですが、難点がひとつ。

原作の作中作として出てくる『ミザリーの生還』は、ホラーファンタジーアドベンチャーみたいな内容なんですよ。三文ロマンス作家ポール・シェルダン作というより、S.キング作っぽい。
アニーのような女性が読んで夢中になるタイプの小説には見えないんだよなぁ。

映画版『ミザリー』の、「ミザリーがロシアの皇女だったなんて!凄い展開だわ!」の方が、アニーのキャラには合ってる感じがする。
まぁ、映画でバッサリ削られた、『生還』執筆過程の試行錯誤の描写はすごく好きなんだけどね。


追記: キングの『ミザリー』に登場するミザリーシリーズは、十九世紀英国が舞台の「捨て子が成長してイギリス貴族と結婚するにいたる波乱の人生を語った、毎回五百ページの」ペーパーバックロマンス小説。

ミザリー・チャスティン、ジェフリー・アリバートン、イアン・カーマイクル(コールソープ卿?)の三角関係で引っ張りながら、ミザリーが海賊にさらわれかけたり、悪女の陰謀でロンドンの精神病院に閉じ込められたり、フランスの変態貴族によって地下牢に幽閉されたりするベタベタなエピソードが延々続く。

『ミザリーの生還』は、ハガード調の暗黒大陸アドベンチャー。実質ジェフリーが主人公で、ミザリーは生き埋めの後遺症で記憶喪失の失語症。アニーみたいな読者のお気には召さないのでは。

付記)キャスリーン・ターナー主演の『ロマンシング・ストーン』シリーズでも、主人公のロマンス作家が書いているヒストリカル・ロマンス内で、ヒロインが海賊にさらわれていたな。やっぱし、拉致はデフォなんだ。