蜘蛛之巣城

トゥインキー・ディフェンスとシュガー・ハイ

Wikipediaが例によって例のごとく編集合戦で保護処理中なので、こっちに書いときます。

ゲイ議員に対するヘイト殺人

1978年11月27日、サンフランシスコ市長ジョージ・モスコー二 George Mosconeと市評議員ハーヴェイ・ミルク Harvey Milk が殺害された。

犯人は同じサンフランシスコ市評議員のダン・ホワイト Dan White。

三十八口径のスミス&ウェッソン・チーフス・モデルを隠し持ったホワイトは、金属探知機を避けて窓から市庁舎に侵入。市長室でモスコーニ市長に通常弾二発を発射し、倒れた市長の傍らに膝を付いて、至近距離から更に頭部に二発を撃ち込み止めを刺した。

ホワイトは銃をホロウ・ポイントのダムダム弾に装填し直し、ミルク評議員を個室に誘い込むと、ミルクの背後から四発のダムダム弾を発射。更に倒れた被害者の頭部に止めの一発を撃ち込んだ。

敬虔なカトリックであるホワイトは、電話で呼び出した妻と伴にセント・メアリーズ大聖堂で祈りを捧げた後、自身のかつての勤務先である警察署に自首した。


ハーヴィ・ミルク議員は、アメリカで初めて同性愛者であることを公表した議員であり、モスコーニ市長もリベラル派の政策を推進していた。

一方ホワイトは保守派の議員であり、ゲイ差別禁止条例に対し反対票を投じていた。また、警官時代にも警察内部の公民権運動を潰す活動を行っていた。
犯行の状況から判断しても、同性愛者に対するヘイトクライムであることは明白だった。

トゥインキー・ディフェンス

巷説では、この裁判において弁護側証人として喚問された精神分析医マーティン・ブラインダー Martin Blinderが、「容疑者は糖分過剰摂取で脳の科学的バランスが崩れ、 精神の不安定が引き起こされた」と「論証」したとされている。

しかし英語版Wikipediaによると、ブラインダー医師の実際の主張は「フィットネスマニアとして知られていたホワイトがジャンクフードを多量に食べるようになったのは、彼の精神状態が普通でなかった証拠である」というものだったらしい。

この際、コーク、カップケーキ、チョコレートバー等とともに、ホワイトが常食していたとして名を挙げられたのが、Hostess社のスポンジケーキ「トゥインキースTwinkies」

Twinkiesが俗語で「おかま」を意味するtwinkの語源となっている為か、このゲイ議員殺害裁判の抗弁を「トゥインキー弁護(Twinkie defense)」と呼び、転じて「犯罪の原因を当人の主体性ではなく外的要因に求める理論」をも指す言葉となった。


この裁判の陪審員は十二名全員が白人のストレート、うち過半数は保守的な初老の女性であり、元警察関係者二名が含まれていた。にもかかわらず、検察側は陪審員の交代を要求せず、ホワイトの同性愛者憎悪の背景にも言及せず、「トゥインキー弁護」に対してもまともな反証はなされなかった。

また、検察側主任捜査官が、法廷では弁護側証人として情状証言を行い、ホワイトの犯行を支持する発言まで行ったが、それに対する検察側の反対尋問もなかった。

サンフランシスコ州の刑法では、公僕の殺害に対しては死刑ないし終身刑を求刑できるはずだった。にもかかわらず、判決はわずか七年六ヶ月の禁固刑。「トゥインキー弁護」が決め手となり、ホワイトの心神耗弱が認められた結果だった。


判決直後、アイリッシュ、イタリアンのカソリック保守派が多数を占める警察・検察組織の偏見に基づいた不当判決として、ゲイ団体とリベラル派市民による5,000人規模の抗議デモが行われ、市庁舎に侵入したデモ隊による打ち壊しにまで発展した。

模範囚であったホワイトは、投獄後五年一ヶ月と九日にして刑期満了前に仮釈放された。ホワイトはゲイ活動家による報復私刑におびえながら身元を隠して生活していたが、1985年、一酸化炭素中毒による自殺をとげた。

砂糖を食べると暴力的になる?

アメリカン・トゥーンには、「砂糖を食べた子供が興奮して暴れる」ギャグがしばしばでてきます。多分モトネタはこのトゥインキー弁護のトンデモ理論だろうと思っているのですが…。

付記)シュガー・ハイ症状(Sugar-high)という俗語もあるそうです。

今回改めて調べるまでは、私も巷説通り、問題の精神科医は 「甘いお菓子の食べすぎで精神状態がおかしくなった」という弁護をしたのだと思っていました。
(ホワイトの自殺を報じた『TIME』誌の記事でも、「糖分の多いジャンクフードの過剰摂取で重度の精神障害が悪化したという、いわゆる『トゥインキー弁護』で心神耗弱による犯行を主張した」という記述だったそうですし)

しかし英語版Wikipediaの記述が確かならば、

「犯人が甘いお菓子を過剰摂取していたのは、心神喪失の証拠である」

…からの、

「犯人が甘いお菓子を過剰摂取していたのが、心神喪失の判決の決め手になった」

…からで、

「犯人は甘いお菓子を過剰摂取していたせいで、心神喪失になった」

…と伝言ゲーム式に都市伝説化したということなのでしょうか??

犯行時のホワイトがかなりイッちゃってたのは確かでしょうが、現在の目で見ると、人格障害が挫折感から暴走したって感じだなぁ。

それが、アイリッシュ&イタリアンのカソリック旧市民及び警察・消防士のマッチョ意識と、リベラル派&有色人種移民層&高所得ゲイ・カップルの公民権運動の対立という政治状況のお陰で、自己正当化にターボがかかっちゃったと。


もとの事件がどういうものにせよ、実際の医師の弁護がどういうものであったにせよ、後世「トゥインキー・ディフェンス」は、「責任逃れのこじつけ弁護」の代名詞として定着することになるのだから、世の中って面白い。


出典: 光文社『EQ』連載 「アメリカの罪と罰」(枝川公一) JUL.'86 No.52「サンフランシスコの暗い朝」
(↑枝川氏の『EQ』誌連載は、現代アメリカ犯罪全書』、『ニューヨーク世紀末―究極の人種都市はどこへゆくのかの二冊にまとめられています)
名著なのに文庫化も電子化もされていないのは本当にもったいない。


オマケ。私等アメコミ者にとっては、Hostess社のお菓子といえば、コミックブックの合間に挟まる牧歌的な広告なんですがね。

("APPLE! LIGHT TENDER CRUST." " CHERRY! REAL FRUIT FILLING."とか言いながら、海中でうれしそうにフルーツパイを食べている MANTA-MENがいとおしいぞ)