蜘蛛之巣城

フィメールリーディング

Dramacon ドラマコン

dramacon#1 Dramacon ドラマコン 1(電子書籍eBookJapan)

そういえば、何度も話題に出している割に『ドラマコン』の内容について書いたことはなかったなと気付いて、今更ながら。

アメリカ東海岸に住む17歳のオタク娘クリスティが、彼氏と組んで作った創作同人誌を売るためにオタクコンベンションに初参加する…という設定。

ほぼ全てのドラマが年に一度(三日間)のコンベンション会場内で完結し、登場人物の背景や日常生活は会話や最小限の回想シーンで処理されます。
当初は1巻完結の予定だったが、好評につき全3巻となりました。

ウケた理由は、作者のスヴェトラナ・シマコヴァの漫画文法が非常にこなれている点と、オタクコンベンションを手際よく紹介した「ウンチク系漫画」としての題材選択が上手かったのでしょう。


dramacon#2 Dramacon ドラマコン 2(電子書籍eBookJapan)

私がこの作品を読んでちょっと驚いたのは、ヒロインのクリスが話の始まった時点で既に非処女だという点。
コンベンションで宿泊先のホテルで彼氏とセックスするしね。
日本の処女厨オタはビッチビッチいうと思うw

日本で同種の企画の漫画が描かれるとしたら、男性向け作品ならメインヒロインは確実に処女でしょう。


女性向け作品の場合どうだろう…少なくともこういう設定で「かっこいい男性コスプレイヤーとのロマコメ」はナイよなぁ。


コンベンションのイベントの合間に展開されるドラマというのが、

初体験の相手である横暴な彼氏に操立てしてドアマット扱いされているヒロイン・クリスが、もっと「深みのある」男・マットに出会う。

それをきっかけに今カレであるデレクとの関係を修正しようと努力しはじめるクリスだが、デレクから「パートナーレイプ」されかかってしまう。

結局デレクとは破局、西海岸在住のマットとはそう簡単に結ばれる訳もなく、クリスはひと夏のほろ苦い体験を通じてちょっぴり成長して終わる

…というのが第1巻。

(続編では漫画家・漫画原作者という職業選択の難しさなどもテーマになってきます)



2005-2007 Svetlana Chmakova and TOKYOPOP Inc.

話の合間に交わされる会話はこんな感じ。

Matt: If he loves you, he shouldn't do things that hurt you. (キミのことが大事なら、キミを傷つけるようなことをしちゃいけないよな)
Christie: So simple... (すっごい正論…)
Christie: What else?! (それから?!)
Matt: Be firmer about what you want and what you don't. Or people will walk all over and manipulate you. (嫌なことは嫌だってちゃんと意思表示するんだ。でなきゃ踏みつけにされて一方的に利用されるだけだぞ)
Christie: ...ni-pu-late me. got it! (り・よ・う される。なるほどね!)
Matt: You're writing it down?... (メモるのかよ?)
Christie: You kidding?! This stuffs gold! Just what I need to tell that prick off! (トーゼン!超名言じゃないの!これでアイツをとっちめてやるんだから!)
Christie: ...Wait. What if...He thinks I'm being clingy...What if he...b-breaks up... (待って。もし彼があたしのことウザい女だって思ったら…別れたいっていいだしたら…)

彼氏のセリフ。

Derek: Then why don't you trust me?! Or is independence too much for you to handle?! I'm trying to respect your space, here, how about you return the courtesy?! (だったらなんで俺を信用できないんだ?!一人じゃなんにも出来ないのかよ?!俺はお前を束縛したりしてないだろ、なんでお前もそうできないんだよ?)

感情的には「うぜーんだよお前は、まとわりつくなよ」なんだけど、それを「Or is independence too much for you to handle?! (自立はお前の手に余るのか?)」とか「I'm trying to respect your space(俺はお前の世界を尊重してるんだぞ)」とリベラルな表現で自己正当化するあたりが、今時のアメリカ男だなーと。


dramacon#3 Dramacon ドラマコン 3(電子書籍eBookJapan)

3巻では、マットと盛り上がってペッティングをおっぱじめた所に邪魔が入って、我に返ったクリスが「邪魔が入ってよかった、避妊の用意もせずにあんなこと」「妊娠なんてしたら人生設計一気に狂っちゃう」とかいうセリフもあります。

(イケメンに拉致監禁レイプされて真実の愛に目覚めちゃったのぉ~な馬鹿話を、中高生女子向け雑誌に満載して恥じない某学館の馬鹿編集者に読ませたいですな)

そういう辺りが非常に現実的で面白いんだけど、あくまで「なるほど興味深いですな」というニュアンスで「面白い」のであって、「萌え~」とか「私もこんな恋がしてみたいわウットリ」な没入感はないんですよね。友達のコイバナを聞かされてる感じ?
そこらへんがエンタメとして弱いよなと。手際よく小綺麗にまとめ過ぎてて、しゃらくさい感じがちょっとする。


ところでDramaconはこの程度で済んでますが、「女性作家の描く女性読者対象の漫画」という気負いがなせる業なのか、Tokyopopの少女漫画にはみょーにジェンダー論とかフェミっぽい主張がナマでぶっこまれた物が時々あって鼻白むときがあったり。

アメリカン・マチズモの象徴たるヒーローコミックの対極を目指して、意余っちゃった結果なんだろうか。

(そういえば、こちらは全く読んだことないんだけど、DCが鳴り物入りで始めて結局ポシャった少女向けグラフィックノヴェルのMINXラインも、解説とか読んで受けた印象では「変な風に肩に力が入った」感があったなー)

Sorcerers & Secretaries 魔術師とニコールと夢想録

Sorcerers & Secretaries#1 Sorcerers & Secretaries 魔術師とニコールと夢想録 1(電子書籍eBookJapan)

エイミー・キム・ガンターAmy Kim Ganterの魔術師とニコールと夢想録 Sorcerers & Secretaries

この作者の本領は純ファンタジーだと思うのですが、本作では日常ラブロマンスの中にファンタジーを作中作として組み入れることで上手いこと折り合いをつけています。

…が、そのラブロマンスの方があんまり面白くなかったり。

マッチョ思想の先輩の影響で女に対して貞節を誓うのに抵抗感のあるコミットメント恐怖症男と、カップル至上主義な世間の風潮に違和感を感じてるブックワームな不思議ちゃんのロマンスなんだけど、あまりにも図式的過ぎるというか。切実さが感じられない。

正直言って、単行本2巻分を付き合いたくなるような魅力のある主人公達ではないなぁ。

作中作は凄く良いんだけどね。


2006-2007 Amy Kim Ganter and TOKYOPOP Inc.

Fool's Gold だめんずの見分けかた ~完全無欠の恋愛指南~

Fool's Gold#1 Fool's Gold だめんずの見分けかた~完全無欠の恋愛指南~ 1(電子書籍eBookJapan)

アミー・リーダー・ハドリーAmy Reeder Hadleyのだめんずの見分けかた ~完全無欠の恋愛指南~ Fool's Gold

ひっでー邦訳題名ですが、内容を的確に表してはいます…一応。


女友達が次々と横暴なマッチョ男に騙されたり振り回されたりするのを見て業を煮やしたヒロインが、横暴男ボイコット運動の地下組織を始める話。

独善的で上から目線のヒロインも、自分の主張する理屈通りにはいかない恋愛感情に直面したりして、最終的にドラマがどう着地するか「興味深い」のですが、いかんせん、キャラクターに好感を持てないのがツラい。

せめてもっとコメディー要素があれば、メッセージ性とヒューマンな味わいのあるヒネリの効いたエンタメに化けたかも知れないのに。


2006-2007 Amy Hadley and TOKYOPOP, Inc.

ハドリーは本作打ち切り後、DCでマダム・ザナドゥの作画を手がけて小ブレイク。上手いポジションに落ち着いたってところでしょうか。

Steady Beat ガール×ガール 私をさがして…

Steady Beat#1 Steady Beat ガール×ガール 私をさがして… 1(電子書籍eBookJapan)

リヴカー のガール×ガール 私をさがして… Steady Beat

お転婆で色気なしのヒロイン、美人でモテモテ完璧超人の姉。母子家庭で、母親は共和党の政治家(当然敬虔なキリスト教徒)。

舞台は保守的なテキサス州の中でもエアポケットのようにリベラルな空気のある町オースティン。

母親の期待を背負わされている優秀な姉にコンプレックスを持つ妹が、ある日姉が実は同性愛者ではないかという疑いを持つ。
姉との関係はどうなるのか、保守系議員の母親がこの事実を知ったらどうなる?という話。

事実を確かめる為に奔走するうちに知り合う少年はユダヤ教徒で、彼の父親はゲイだったり…と、設定は盛りだくさんなのだが、ドラマとして全然生かされてないのがどーも。

細かなエピソードの積み上げで人間関係を描写していく技術が欠けているので、作者の主張を代弁したキャラクターの演説を延々読まされるハメに。


2005-2006 Rivkah and TOKYOPOP Inc.

これ、往年の西谷祥子が描いてたらめっちゃ面白かっただろうなー。


Fool's GoldにしろSteady Beatにしろ、読んでて一々「あー、アメリカ女だよな~(ヒロインも作者も)」とちょっと辟易してしまうのがニンとも。

貶しはしたけど、上記三作とも、優秀な編集者がちゃんとチューニングすれば、いいエンタメ作品に化けると思うんだよね。

少なくとも、もう徹底的にカテゴライズされて「ウケ線」パターン以外はやりようのない日本の少女漫画雑誌よりは、「新しい何か」「志ある表現」が出てくる可能性はあると思うんだ。
『リボンの騎士』リメイク(高橋ナツコ・花森ぴんく版)があんな作品になってしまう日本の少女漫画市場には絶望しかないよ…。

OEL少女mangaも少女向けグラフィックノヴェルもコケたというのに、最近アメコミニュースサイトを読んでて頻繁に出くわすのは、「この新シリーズは女性読者にもアピールするように作ってます」っていう編集者のコメントなんだわ。マーヴェルで『高慢と偏見』をグラフィックノヴェル化したり。

アメリカで「フィメールリーディングタイトル」を成功させるには、女性読者がフィクションに求めるファンタジーと、作者が女性読者に伝えたい主張をすり合わせて作品としてまとめ上げ、的確なパッケージングで「商品」として市場に送り出す能力のある編集者が一番必要なんだけど…いるのかしらね、そんな人材。