蜘蛛之巣城

フィメールリーダー開拓史(中編)

カサーダ編集長の憂鬱

-- Given that Tsunami's mission statement includes appealing to the currently untapped female audience, and with the launch titles featuring only one prominent female character (Mystique), was any thought given to reprinting Spider-Girl content as a companion to the line?? (Tsunamiのターゲットがアメコミファン以外の女性で、創刊ラインナップで女性キャラが主役を張っているのが一作だけということは、Spider-Girlの再刊も同じラインと見なしてもいいんでしょうか?)

Quesada: No. Outside of letters from grown forty-year-old men pretending to be girls in junior high school, I don't have any concrete evidence that Spider-Girl is actually reaching a large female readership.(いーえ。Spider-Girl関連で反応くれるファンなんて、女子中学生の皮をかぶった40男くらいのもんですよ)

当時のカサーダ総編集長(以下、「Qちゃん」)は、映画版に合わせた設定リセットUltimateシリーズで新規読者を取り込みつつ、Marvel Knightsで明確なマニア向け「青年誌」展開、帰参したクレアモントらとともにgdgdになってしまった本線シリーズを整理……こうして簡潔に記述すると、Qちゃん、基本的には何一つ間違ったことはしてないな。

でもあの頃、実際出来上がったモンをリアルタイムで読んでた人間には、Qちゃんがタイトル私物化して迷走してるようにしか見え…げふげふ。

女性作家起用路線

rogue Rogue - Marvel Icons
(2001年) arana Arana: Heart of the Spider
(2005年)

前回ちょっと書き忘れてたんだけど、マーヴェルの女性読者獲得大作戦には、女性作家起用ラインというのもありました。

例えばこの、ライターがフィオナ・アヴェリー(Topcowでライジングスターズやトゥームレイダースのスピンを書いてた人)、カバーアート担当はジュリー・ベル(バッドガールものブームの頃にインディで色々セクシーなペイントアートを描いてた人)のRogue - Marvel Icons(2001年)とか。

フィオナ・アヴェリーさんは新生Amazing Fantasy 誌(2004年 -)立ち上げ時のライターとして、新しい少女ヒーローの Aranaを創造したりもしてましたな(でも私は7号から登場のCarmilla Black のが好きなんや~~)。

結局コアなアメコミオタ受け方向に行った本家のSpider-Girl に比べると、「ヒーローコスチュームを着ない少女スパイダーマン」のアラーニャは、明らかに少女読者獲得戦略キャラクター。
短期とはいえ単独タイトルも創刊されて、他タイトルへの顔出しもしていますが、一般読者を獲得できたかというと?ですが。


また、NYX: No Way Home(2008年)やDark Wolverine(2009年) 脚本担当のマージョリー ・M ・リュウは「Romantic Times」誌のベストパラノーマル・ロマンス賞受賞作家で、虎に変身するヒーローが出てくるパラノーマルロマンス小説も書いている。やはりここら辺隣接ジャンルなのですな。


ここら辺の地道な試みはずっと続いていて、2008年サンディエゴ・コミコンのパネルディスカッションWomen in Marvelで公表された、シナリオ:Valerie D’Orazio 、アーティスト: Irene Flores 、カラリスト:Emily Warrenという女性作家トリオによる Cloak & Daggerのミニシリーズ企画とかに繋がっていく訳です。

イレーヌ・フローリス先生は、TokyopopでパラノーマルロマンスものOEL『Mark of the Succubus 夢魔ミーヴ ~ファースト・ラブは命がけ!~』の作画をしてた人。ディグレやリボーンのファンで、スタトレスラッシャーな腐女子であらせられます。最近はヘタリアに激ハマリしていらっしゃる模様…というあたり、非常に今風の人選ですな。

付記)どうも、Cloak & Daggerミニシリーズ企画はコケたっぽい。楽しみにしてたので残念…。

TSUNAM創刊

それはさておき。

対象読者をはっきりさせたラインを作って、各々新規読者層の開拓に励みましょう…という基本方針の下「とりあえずmanga読者のティーンエイジャーにアピールしてみました」なMarvel Mangaverse(2002年)は、「mangaを読んでる、違いの分かるオイラ」にアイデンテファイしている選民思想のOTAKUからは、
「mangaとanimeを混同してんじゃねーよタコ。つか、なんだその80年代センスは」
と跨いで通られ大コケ。


闇雲にパワードスーツと猫耳娘出しゃいいってもんでもないんだな、と学習したQちゃんが2003年に大々的に打ち出した企画が、TSUNAMI

TSUNAM創刊アナウンス時のQちゃんの言。

Manga is exploding and reaching readers comics have been having trouble reaching since, well, since the dawn of comics. To ignore this influx of young readers, especially the young female reader, is just foolish. (Manga は大ブームで、しかもコミック史の黎明以来、取り込みに手こずり続けて来た読者を獲得しています。若い読者、特に若い女性読者の参入を無視する訳にはいきません)

対象読者はmangaファンの13歳の子供。特にyoung female reader

「OEL-manga」を作るのが目的ではなく、TokyopopとViz が翻訳mangaの販売で確立した、

「13歳の少女がBordersやWaldens、Barnes & Nobleなどの一般書店でダイジェストサイズ(B6判)のTPBを衝動買いする」

という購入パターンに乗っかれるフォーマットの商品を作ろうというのが基本コンセプト。

なので、コミックブックストア販売用のB5サイズ月刊タイトルを6冊刊行した時点で、即TPBを一般書店におろす。
しかもTPBは"Marvel Manga format"と名づけたB6判。一般書店のmanga売り場に置いてもらう為のフォーマットです。

B6判TPB

emma Emma Frost #1
「女性向け」どころかフェミニスト論客がブチ切れそうな表紙だな

それ以前にも、今は亡き(そしてディズニーに買い取られてそのまんまな)Cross Genコミックスが"traveller editions"という小型単行本を出してましたが、当時、このサイズ問題は結構重要でした。

2006年に、Bandai Entertainmentと提携したTopcowプロダクションが、Witchbladeの初期エピソードをWitchblade Tankobon版として表紙にBandaiのロゴを入れたB6判サイズのTPBで出しなおしたら、それまでのTopcowの固定客以外の若い女性読者が増えたんだそうな。

「フォーマットと売り場を変えないと、内容以前にターゲットの目に止まらない」

ってことで、この判断自体は一応良しとしましょう。


namor Namor #9
この号の表紙のみ榊原瑞紀が担当

で、肝心の内容ですが…大半が既成キャラの若返り設定違い。

メインターゲットである、ヒーローアメコミに偏見をもってる読者は、これじゃ内容以前にタイトル見ただけで避けるのでは?

特にNamorは、当初日本人アーティストの榊原瑞紀が作画担当する予定だったのが、間際になって「やっぱり大きい企画だから、有名アーティストじゃないと」ということで降板。

普段ヒーローコミック読まない読者にとっては有名アーティストの起用はウリにはならないのでは?
…結局、旧来のコミックブック専門店からの予約数確保を無視できなかったってことでしょうか。

TSUNAMIをマーヴェルユニバースへの導入役にしよう、という色気が出すぎて、いまひとつ中途半端な企画になってしまったような。


sentinel Sentinel #6

企画立ち上げ時にQちゃんが
It’ll have the same feel as traditional shoujo manga (伝統的なshoujo mangaと同じような感覚で描かれ)
と言ってる通り、

UDONスタジオ作画のいかにもアニメっぽいSentinelは別として、他はモダン系アメコミアートが基調ながら、mangaを意識したコマ運びで、人間ドラマ中心、心理描写にページ数を沢山使うというスタイルなんだけど……無駄ゴマのお陰で話が進むのが遅いんだ。

「5分で立ち読みできるような内容の薄い本に、金出したくねーよ」
という声もあったり。

しかし、まぁ、
「mangaの文法を取り入れたマーヴェルヒーローコミックスを、ダイジェストサイズTPBで一般書店のmanga売り場で販売」
というコンセプト自体はそれ程酷い思い付きではなかった……が。

Trade waiters(単行本待ち読者)

現実の市場でどういう事がおこったかといいますと。

無駄ゴマ多くて話の進行遅い。一話の内容薄い。
 ↓
あらかじめ「6話まで話が溜まったら、即単行本出るよ」とアナウンスされてる。
 ↓
だったら単行本でまとめて読んだ方がいーや。
 ↓
月刊タイトル売れず、当座の資金回収できず。
 ↓
単行本、最後まで出せないかも…つか、シリーズ打切りで、いい?



と、いう訳で、アメコミの歴史に

"waiting for the trades" (単行本待ち)
"trade waiters" (単行本待ち読者)


というジャーゴンが加わる契機となったのでございます。
(それ以前にもあった言い回しかも知れないけど、私はTSUNAMI騒動ではじめて目にしました)


mutants New Mutants #3

書店で単行本を買ってシリーズに触れた読者が、続きを読むためにコミックブック専門店で月刊誌を買う。

できればそのついでに他のマーヴェルタイトルも手にとってもらう…というサイクルを期待した企画だったのに、それ以前の段階でつまづいちゃった訳です。

どうにか出した単行本も、マーヴェルの営業が一所懸命「mangaコーナーに置いて」って頼んだのに、書店員さんにグラフィックノヴェルの棚に置かれちゃったり。
(でもさ、「マーヴェルコミックスのヒューマントーチ」ならそうなるよね普通)

そもそもが書店売り単行本の為の企画なのに、専門店での月刊誌の予約がとれないというのを理由に打切りってのも変な話なんですが…。

ショージョマン…ガ…?

venom Venom #1
なんでsoujo-mangaでベノムなのかというと「女の子はホラーが好きだから」だそうな。…あのねQちゃん、女の子が好きなホラーって、こういうのじゃないと思うの。

アテにしていた「shoujo manga 読者」ですが……いや、どう見てもこのラインナップ、少女マンガじゃないよねぇ。

多分、会議を重ねるうちに、当初の企画からどんどんズレていっちゃったんじゃないかな。

社内で企画をつめてる限り、こういう風になってしまうという反省が、後のDel Rey外注版Shojo manga style X-menに繋がってるんでしょう。

このサイト内の関連記事:少女mangaスタイル X-men 2009-8-1
このサイト内の関連記事:少年mangaスタイル Wolverine 2009-3-29


そんな訳で、約一年間の奮闘の末、TSUNAMI終了。

New MutantsはそのまんまAcademy X のイントロに。

デリケートな青春群像ものとして良く出来ていたRunaways は、メイン・ユニバースに加えられてシリーズ存続。

runaways Runaways #6
こういう成果も残しているので、あながち完全な失敗企画とも言い切れない。

最近、TSUNAMI時代のエピソードを改めてB5判TPBで出しなおしたりしてるって事は、正式に対象読者をヒーローコミックファンに設定しなおしたのかな? mangaバブル崩壊でダイジェストサイズ単行本で出すメリットがなくなったってのもあるけど。



個々のタイトルのファンは「もうちょっと踏ん張ればいいのに…」 と嘆きの声をあげつつも、「でも、親方ワーナーなDCは利益率の悪い実験的ラインも維持できるけど、今のMarvelは企業としての体力ないから、仕方ないよね(メソリ)」と涙をのんだのでした。

この頃ゲイマン先生のMarvel 1602も予定回数から大幅短縮で終了。DCなら普通に満了して、TPBがロングセラーになってるようなタイトルだよね…マーヴェル弱すぎ!とマニアは愚痴ったものです。

今回のディズニーとの合併で「親方ABC」となったマーヴェルは、DC並みの企業体力を得ることになるのですが、さて…?

TSUNAMIの話で力尽きたので、つづきは後編で。

付記)女性向け企画じゃないけど、manga系ではトミィ大塚、雪村誠起用のX-Men: Ronin (2003年)のミニシリーズもありましたっけ。

追記:Epicレーベルの黒歴史

Trouble Trouble #1(September 1, 2003)
このビキニ娘のどっちかがメイおばさんなんだよなぁぁぁ…

素で忘れてましたが、2003年にマーヴェルのEpicレーベルで「ショージョマンガ読者を意識した女性向け作品」として、スパイダーマンのスピンオフ作品『Trouble』という全5話のミニシリーズがありました。

ライターは、みんなだいすきマーク・ミラー。


内容は…えーと、えーと、ちょっと解説する気力がないので各自検索して把握してください……。

マーク・ミラーは通常運転してるだけだし、責任を追及するべきは奴に仕事を投げたカサーダの方だよなぁ。Qちゃん、本気でコレが「ショージョマンガ読者にアピールする」と思ってたの???