蜘蛛之巣城

フィメールリーダー開拓史(後編)

ヤングアダルト路線

mj Mary Jane: Homecoming
(2005年)

そんな訳で、大々的に展開したTSUNAMIが2004年5月をもって終了後、マーヴェルの女性向け路線は、もうちょいフットワークの軽い形で探り探りに続いてゆくのであります。

前述の、フィオナ・アヴェリーによる、一般向け少女スパイダーマンのアラーニャ(2004年 -)。

TSUNAMI 打切と入れ替わりのように始まった、Mary Jane (Aug. 2004 - Nov. 2004)と続編のMary Jane: Homecoming (Mar, 2005 - Jun, 2005)、  Spider-Man Loves Mary Jane (Dec. 2005 - Sep. 2007) 。

TSUNAMIのメインライターだったSean McKeeverと日系アーティスト Takeshi Miyazawa コンビによる、アクションよりも学園生活中心のスパイダーマン。

少女マンガというより、ドラマのSmallvilleヒットの影響を受けたヤングアダルト学園SFって感じですが、スパイダーマン本来の世界観にマッチしていて、それなりに好評を得て続いてます。


その頃、日本製少女マンガの翻訳ラッシュに、先行きのコンテンツ不足を懸念したか、Tokyopopが自社製作オリジナルmanga路線を展開(2005年 -)。
翌2006年からはDCコミックスが少女向けグラフィックノヴェルのMinx ラインを展開 (May 2006 - Sep. 2008)。

外様クリエイターとファッション性の導入

storm Black Panther # 18
(2006年)

マーヴェルはといえば、2006年に、ストームとブラックパンサーのアフリカ系ヒーロー同士の結婚という、アフリカ系読者人気を意識したイベントを仕掛けます。

この際のミニシリーズStorm(May, 2006 - Nov. 2006) のシナリオ担当は、アメコミ業界人ではなく、オシャレな都会派ロマンス小説で人気のアフリカ系アメリカ人作家、エリック・ジェローム・ディッキー。(邦訳は角川書店『ミルク・イン・コーヒー』有)

二人の結婚式はBlack Panther # 18で描かれますが、この際ストームが着たウェディングドレスは、著名な衣装デザイナーのShawn Dudleyがデザイン担当しています。

明らかに女性受けをねらったイベントですねコレ。


shi Shi: Ju-Nen 
(2004年)

アメコミは肉体描写はすばらしくても、私服のデザインが残念なものが多いので、こういう試みは歓迎します。

2004年にウィリアム・ツッチーがSHIのミニシリーズでアナスイと提携して、作中の衣装をすべてアナスイのプレタポルテで統一したりしてた先例もあります。(ちなみにツッチー先生はファッションイラストレーター出身)

そういえば日本でも、さらヤマの森雪の私服が花井幸子、バルディオス映画版のアフロディアのドレスがニコルの松田光弘のデザインだったなぁ。
当時アニメージュの折込ポスター裏で、松田さんが003やセイラさんの私服デザインをする企画があった。クロゼットをひっくり返したら出てくるはず。



Marvel Ai
I (heart) Marvel: Marvel Ai #1
(2006年)

あと、2006年にはNew Mangaverseが出たけど、イマサラ感強くてあんまし話題にはなりませんでした。

同2006年には女性編集者 Molly Lazerさん担当で色恋沙汰中心のアンソロI (heart) Marvel: Marvel Ai #1 刊行。

ライターが C.B. Cebulski、作画が日本の漫画家・イラストレーターのたにぐち智子、小林系、toga / togatsuko。

ネットではちょっと話題になったけど、売り上げ的にはどーだったんだろ?


ヒーローコミックと恋愛イベント

wedding X-Men #30
(1994年)
90年代のサイク&ジーン(白人男女)
→2000年代のブラックパンサー&ストーム(アフリカ系男女)
→2010年代のノーススターのゲイマリッジ(白人男性と非白人男性)
…と、マーヴェルは結婚イベントを自社の政治的正しさアピールに利用しているのですな。

しかしまぁ、それはそれとして。
恋愛・結婚イベントで女性客を釣りたいんならさ、恋愛の成就する過程や、結ばれて後の関係の描写にも気を使ってほしいんだが。

つか、女性客が恋愛ものに求めるのって、そーゆーモンでしょ?やみくもにラブシーンつっこめばいいってもんじゃないのよ。

新路線になる度に、ちょっと前のエピソードで死線を越えて愛を確かめ合った恋人たちが、とってつけたような理由であっけなく破局。
それまでそんな素振りも見せなかったキャラ同士が、突然生きるの死ぬのレベルの熱愛カップルになったりするような雑な展開はやめようよ。

90年代のサイロックの扱いはホント酷かった。ローグもかなり。
そんなんだから数少ないファンガールにまで愛想つかされんだよ!(←思い出し怒り)

ストームの恋愛・結婚イベントなんて、商売の都合で突然多量の後付けエピソードでエクスキューズして無理やり盛り上げてるのがミエミエで、キャラクターを大事にしてるようには到底見えなかったよ。
元彼・フォージの扱いも酷かった…。あんなキャラを貶めるようなエピソードで無理やり盛り上げなくたっていーじゃん!


どうせロマンス作家を招聘するなら、ノーラ・ロバーツあたりを呼んでくれば?
この人バットマンをモトネタにしたビジランテが登場するNight Shadowというパラノーマルロマンス作品も書いてるし。「女にとっての理想の男」というのがどういうものか見せてくれるんじゃないでしょーか。

女性向けエンタメが要求するカタルシスは、男性向けのそれとは相当異なっているんだから。 (男性性が女性性の前に屈服する、ユニコーン神話的なもの?)

ショージョmanga世代のクリエイター達

plainjanes The Plain Janes
(2007年)
DCの少女向けグラフィックノベルMinxレーベル作品

とはいえ、
「なんだかんだ言いつつも、結局はアメリカン・マチズモが基盤となっているヒーローアメコミ」

…に対するカウンターとしてニッチ市場に食い込んだのが日本の少女マンガであり、少女マンガ家志望のOEL作家に好き勝手に描かせると、どうしてもそこらへんに対する問題意識というか、憤懣がモロに出た作品になりがち。(共感はするけど、エンタメとしてはちょっと…)

一方、企画主導型の作品『プリンセス・アイ』 や少女マンガ版 X-Menは、メアリ・スー的な少女の妄想奉仕媚び媚び厨2作品になる。(ショーバイでやってる分、本物の厨2よりタチ悪ィ)

かといって、「ヤングアダルト文学」としてキッチリ仕上げたMinxは市場からスルーされ、 2008年9月をもって休刊。
(現物は読んでないけど、ナード少女の自意識を描いたような作品ばっかで、華のない印象。わざわざ手に取ろうという気がおきない…)

このサイト内の関連記事:フィメールリーディング 2009-5-13
このサイト内の関連記事:少女漫画スタイル X-メン 2009-8-1

そして、mangaバブル崩壊

bighero6 Big Hero 6 #1
(2008年)

そうこうするうち翻訳マンガ過剰供給による市場飽和と原油高騰、提携先大型書店の経営危機の相乗効果で、2008年夏、北米mangaバブル崩壊。

一時はあんだけブイブイいわせてたTokyopop、見る影もなく衰退。
更にリーマン・ショックで経済しっちゃかめっちゃか。

マーヴェルは2007年末にDel Rey Mangaと提携して少女マンガ版 X-Menの企画を公表していたが、制作は遅れに遅れて実際に発売されるのは既に世間はmangaどころじゃない2009年8月。大して話題にもならず。


追記:
やはり 同時期にmangaブームをあてこんでリスタートさせた日本が舞台のヤングチームものBig Hero 6も1号が出たのがmangaバブルのはじけた2008年の末という超バッドタイミングで、当然ながら見事にズッコケたんですが。 まさかそれが忘れた頃になってディズニーのアニメ企画に拾われるとは。

『トワイライト』フィーバー

buffy Buffy the Vampire Slayer Season 8
vampirekisses Vampire Kisses: Blood Relatives
(2007年 - 2009年)

ところで、その2008年冬、インディ系配給会社Summit Entertainmentの低予算映画Twilight(邦題:トワイライト~初恋~)が女性客を中心に大ヒットを飛ばします。

原作は英国の女性作家ステファニー・メイヤーのヤングアダルト小説『トワイライト』シリーズ(2005年 - 2008年)。監督も女性。
メグ・キャボットの『メディエータ』シリーズ等と同様に、ギーク系女子に人気のパラノーマルロマンス小説です。

非チアリーダー系の陰のあるヒロインが絶世の美少年ヴァンパイアから「運命の恋人」として純愛をささげられるという、「ネクラ乙女のお耽美な夢想」をこれでもか!というくらいに徹底して具現化した作品。

女性向けの「吸血鬼ものパラノーマル・ロマンス」は、英語圏では溢れるほど生産されている人気ジャンルで、トワイライトはその中でも設定自体はひねりのない超ベタなものですが、感情面におけるディティール描写が…というか、ぶっちゃけ「萌え描写」が優れていたのが頭二つ三つ抜け出た理由でしょう。

この系統ではジョス・ウェドン脚本の映画『バッフィ/ザ・バンパイア・キラー(1992年)』及び派生TVドラマシリーズ『バフィー ~恋する十字架~(1997年 - 2003年)』が先行してヒットしていますが、Buffy the Vampire SlayerはDark Horseコミックス社制作のコミック版が1998年から現在まで続く長期シリーズになり、アメコミ業界としては珍しく少女読者を獲得しています。

スヴェトラナ・シマコヴァの『ドラマコン』第3巻冒頭のバフィー談義を読むと、アメリカのギーク女子界ではバフィーが特別なポジションにあるらしいことが見て取れるんだけど、どういうニュアンスなのかまではわかんない。

ドラマコンの出版元のTokyopopからも、エレン・シュライバーのヤングアダルト小説『ヴァンパイア・キス』原作、モーニング国際漫画賞受賞のOEL漫画家remが作画を担当したVampire Kisses: Blood Relatives(2007年 - 2009年)が刊行されています。

パラノーマル・ロマンス

anitablake Anita Blake Vampire Hunter: The First Death
(2007年)
このシリーズのメイン作画担当ブレット・ブース先生は女性向けパラノーマルロマンス要素のある企画に起用される率が高い気がする。
もともと獣人好き属性のある人だし、Image時代に手がけていたオリジナルシリーズBacklashも、主人公と女性キャラ達の関係描写に誠実味があって良かったな。適材適所。

当然マーヴェルでもぬかりはありません。
女性作家ローレル・K. ハミルトンの『アニタ・ブレイク』シリーズ 原作のAnita Blake Vampire Hunter(2006年 - )。

原作はヤングアダルトではなく、成人女性向けパラノーマルロマンスの人気作です。
メキシコ系女性のヴァンパイアハンターが、イケメンのフランス人ヴァンパイアロードと一途な人狼青年に求愛されるという設定。


女子向け最強コンテンツ候補として、Twilightの漫画化権は結構な奪い合いの末、Yen Press が獲得。コリアン漫画家Young Kim作画による、えーと、この場合OEL manhwa っていえばいいの?になる予定。

そのような状態ですので、アメリカのコミック業界では、ちょっと前まではギーク女子受けパラノーマルロマンス要素のある作品は必死に「shoujo mangaファンにもアピールする内容ですっ!」て営業してたのに、今では「Twilightファンにおすすめ!」の宣伝文句が付くんだよ。ゲンキンだなっ。

このサイト内の関連記事:とうに黄昏を過ぎて 2010-1-22

ディズニー傘下としての未来

pride and prejudice Pride & Prejudice #5
(2009年)

そんな訳で、マーヴェルヒーローを一般女子に売り込む努力と共に、非マーヴェルユニバースの原作付女性向けコミックのライン化も探り探りで続けられています。

その尖兵が、ジェーン・オースティンの古典ロマンス小説『高慢と偏見』のコミック版 Pride and Prejudice (2009年)。

英国リージェンシー小説界の誇る元祖ツンデレヒーロー・ダーシー氏×元祖プレーン・ジェーン型ヒロイン・ベネット嬢のロマンスの登場だ。
一足飛びにそこいくか、マーヴェル。まぁ、女性向けエンタメの古典から学ぼうという姿勢は大変結構ですが。


…と、マーヴェル女性読者獲得の尽きせぬ夢を、主にカサーダ体制以降を中心にまとめてみましたが、今後ディズニーからノウハウを吸収して様々な企画が世に出るのか、ディズニーの「男性向け部門」として特化の道を進むのか。mangaの帝国在住アメコミ好きボンクラ貴腐人としては、ニヨニヨしつつ見守っていきたいと思うのであります。


2014年7月1日追記:
サイトをhtml5化するついでに事実誤認の訂正や記事の追補を行いました。
5年後の状況を見ると、ディズニー本体の「プリンセスもの回帰」「女児向け玩具好調」を受けて、マーベルは(女性やゲイの扱いに関してリベラルな姿勢を求められつつも)大筋では「ディズニー男性向け部門」に向かっているような印象。