蜘蛛之巣城

フィメールリーダー開拓史(前編)

アメコミ関連ニュースサイトはMarvel/Disney 関連議論でえらい騒ぎな訳ですが。
ディズニー側の思惑はさておき、ウチのサイトで散々ネタにしてきた「マーヴェル女子&子供読者獲得苦闘の歴史」を思えば、今回の選択は結構納得できるものではあります。

んな訳で、過去記事リサイクルしつつ、ちょっと簡単にまとめてみましょうか。

マーヴェルコミックスのフィメールリーディングタイトル迷走史(序)

actualconfessions Marvelの前身Atlas Comics時代のActual Confessions(1952年) 担当編集兼ライターは若き日のスタン・リー。

今でこそアメコミ市場といえば、ジャンルはスーパーヒーローもの中心で読者は20~30代男性コミックブックマニアが大半を占めています。

しかし1940年代後半から50年代頃のいわゆるPre-Code期には、コミックブック読者の男女比は女性の方が多かった…らしい。

付記)戦前はNell Brinkleyが"Queen of Comics"と呼ばれて人気を博していたらしい。薄絹の描き方が細川智栄子っぽい。

そういう市場動向を受けて、コミック出版社も「女性向け」タイトルを多数出版しておりました。
その女性向け百花繚乱振りは、とりあえずここらへんを眺めてみるとよろし。

参考外部サイト:Classic Good Girl & Romance Covers

女ターザンものだのB級SFホラーものだのもありますが、主流はロマンスものですね。

DCのロマンスコミックとフォロワーたち

fallinglove Falling In Love #5 - Unwelcome Heart (June 1, 1956)

ロマンスジャンルのパイオニアは、DCコミックスのYoung Romanceシリーズ(1947年創刊)。丁度コスチュームヒーローもののブームが過ぎて、次の路線を試行錯誤していた時期のことです。

立ち上げ時ライターはジョー・サイモン、アーティストはジャック・カービーの大御所コンビ。後続アーティスト陣にはジェリー・ロビンソン御大やロミータ父の名も。


DCのロマンスコミックの路線があたってDCからも他社からも、類似企画がどんどこ。

このDCコミックスのFalling In Loveシリーズ(多分数話完結のメロドラマ)、女二人男一人の三角関係ものが多いらしく、表紙ではヒロインが涙ぐみつつ物陰からカップルを見つめる構図が多し。昔のアメリカ女は慎ましかったのね。
…とりあえず私は、この# 5 - Unwelcome Heart で緑の服のネーチャンが何故こんなに勝ち誇った顔で仁王立ちしてるのか知りたいです、すごく。


当然、マーヴェル(当時はアトラスコミックス)からもロマンスコミックは出てますよ。
Actual Romances、Girl Confessions、Love Adventures、My Own Romance、Love Secrets ...
タイトルにはLoveとRomanceのてんこ盛り。

このGirl Comicsシリーズは、ヒロインもの+犯罪ものの人気ジャンルまとめて一粒で二度美味しい系ラインかな?

ロマンスコミックの爛熟と衰退

Liz Berube
Liz Berubeのファッションイラスト

ここまで爛熟したジャンルが何故跡形もなくなってしまったかというと、コミックスコードと現実世界のセックス革命と出版不況が絡み合った結果でしょうか。


当時DCのロマンスコミック誌でおしゃれアトバイス欄や星占いページを担当していたLiz Berubeのインタビューによると

「世の若者の流行はモッズだのツィッギーだのブリティッシュインベンションだのだったのに、編集は古臭いダグラス・サークのメロドラマみたいなストーリーしか通さなかった」

だそうな(リズ・ベルベのイラストは今の目で見てもほんとにオシャレ)。


DCとMarvel両方で仕事をしていたIrene Vartanoffさんの発言によると、
「女性がキャリアと結婚の間で悩んでいる過渡期の時代だったのに、コミックは旧態依然の価値観だった」
「セックス革命の時代だったのに、コミックの世界は表現規制が厳しすぎて女性にとって重要な問題である『性』をテーマにする事ができず、直接的なライバルであるロマンス小説や映画に大きく水をあけられてしまった」

参考外部サイト:Interview with Irene Vartanoff!

…保守的な性道徳を押し付けてくる表現自主規制と、現実の女性解放運動の流れとの乖離(あと、コミック業界は男性中心社会なので、描かれる恋愛像が男のファンタジーを反映しがちってのもある)。そこにトドメの出版不況。

スーパーヒーローコミックの影で…

secretromance secretromance CharltonのSecret Romanceシリーズ(1968年 - 1979年)
おっしゃれ~。

表現自主規制のお陰でマス市場向けの過激なクライムストーリーや現実的なエロス表現を含んだロマンスなどは骨抜きにされたものの、アメリカンコミック業界はファンタジー&SF方面に表現を拡大し、50年代半ばから70年代にかけて、スーパーヒーローコミックのシルバーエイジを迎えます。

各社ロマンスものも70年代半ばくらいまでは細々と続けていたものの、どうしても主流は売れ筋のヒーローコミックに。

とはいえ、Charlton Comics社のジャンル末期の作品群あたりになると、表現として成熟・洗練されて、カバーアートなんかすっごいオシャレ。

遠い憧れだった、豊かで陰りない夢の国・アメリカの青春…って感じだよな。往年の西谷祥子の少女マンガのような世界だ。
こういう流れが一旦切れてしまったのは、なんとも残念。


ちなみにハーレクイン社が北米でペーパーバック・ロマンス小説の販売をはじめたのが50年代初頭、急成長が70年代半ば。80年代初めにはロマンス小説のバブル期が来ます。ロマンスコミックの対象読者はそっちに流れた訳ですな。


付記)愛知教育大学英語研究室の尾崎俊介先生による論文「ハーレクイン対シルエット 『ロマンス戦争』の行方 Harlequin vs. Silhouette : The Causes, Course and Outcomes of the "Romance War"」を読むと、70~80年代の北米ロマンス小説バブルの加熱振りやアメリカのペーパーバック販売における配送ネットワークの重要性が理解できます。

「スタンド売り」という点でロマンスコミックの直接的なライバルだったハーレクイン&シルエットの二大巨頭はバケモノ並みに強過ぎた…。

そして80年代

その後も各社時々思い出したように「女性読者獲得」に目配せしてみるものの、流れは止まらず。
80年代も半ばになれば、表現自主規制なんて有名無実化してるし、色々なタイプの作品も出せるはずなんですが…。

作品内容が男性向き中心ってのも理由ではありますが、コミック販売がスタンド売りから専門店のダイレクトマーケットにシフトしたのが、すごく大きいんじゃないでしょーか。大概のコミックブックストアって、女一人で入れる雰囲気じゃないし(非オタクの女性が「とらのあな」に入れないのと一緒)。

ちなみにコミックスコードは子供の手が届く新聞スタンドやドラッグストアに置く作品を認可する業界の自主規制基準なので、それ以外のコミックブック専門店にいけばコード基準外の作品はいくらでも置ける。
ドラッグストアでも、表紙をさらして置くのは禁止だけど、販売員に頼んで奥の棚から出してもらうのはOKとかいう話も聞く。…でも、普通の人はそうまでしてコミック本を買わないよねぇ。

実際のところ、アメコミの表現規制に効力を発揮したのはコミックスコードよりも各町の独自基準による規制だったようですが。

90年代ショージョmangaブームきたる

mangaverse
Marvel Mangaverse
(2002年)
C.B. セブリスキ、ベン・ダン、アダム・ウォーレン、UDON スタジオ、ジェフ・マツダ…と、この手の企画では定番のクリエイター達を集めているのですが、出来上がりは…。
あまりに「当時のステレオタイプなmanga/animeイメージ」に固執しすぎて、かえって不自由なつくりになってたよーな。

そんなこんなで女性客獲得は半ば諦めつつ確実なマニア向け商売をつづけていたら、作品の表現としての質は高くとも、いつの間にやらマニア中心の狭くて濃い市場に成り果て。
将来の顧客となるべき子供客も減少し、このままでは先細って市場消滅?という事態に。

マニア偏重、子供おいてけぼりの結果起こった、80年代日本のアニメ冬の時代と同じですがな。


そして90年代のコレクター・マニア層のみを中心としたアメコミバブル。
株屋によるマーヴェルの狂乱運営とその破綻、IMAGE維新軍団の空中分解、ATARIショックも真っ青のインディコミック出版社の連鎖倒産…と、90年代半ばから深刻なアメコミ冬の時代到来。

そんな中、ヨーロッパでのブームから十年程遅れて、日本製mangaが北米に本格参入してきます。

アメリカのマニア世界では日本製サブカルチャーのムーヴメントは今までに何度もありましたが、今回はニンジャや怪獣、ロボットだけでなく「少女マンガ」という新顔が流入。市場のスキをつく形で勢力を伸ばします。


マーヴェルをおん出て独立していたアーティストのカサーダが、マーヴェル建て直しの為に、なんと総編集長として古巣に召還。しかし中々成果はあがらず試行錯誤の日々…。

アメコミは売れ行き不振なのに、なぜかジャパニーズmangaはアメコミを見向きもしない若者や子供や女性に売れている。女性はコミックを読まないものと諦めていたのに。
人類の半分は女。フィメールリード・タイトルを開拓できれば市場規模は一気に2倍!小さなパイの奪い合いの日々からすれば夢のよう。

mangaに学べ!…でも、一体どこら辺を取り入れればいいの?作品内容、アートスタイル、ビジネスモデル…?
ま、とにかく実験的にmangaスタイルのマーヴェルヒーロー本を単発でだしてみまショ。

ステレオタイプmangaスタイル

newmangaverse
New Mangaverse: The Rings of Fate (2006年)
第二期のNew Mangaverse

てな訳で、2002年に創刊されたのが、MARVEL MANGAVERSE
ラインナップはアヴェンジャーズ、スパイダーマン、パニッシャー、X-MEN、ゴーストライダー、ファンタスティックフォー、及びユニバース合同物。

内容は……一言でいうと、80年代の低予算OVAを更に劣化させたみたいな感じ?

まー、この時期マーヴェルだけでなく、インディ出版社各社もイタタなmangaスタイルを出して在庫かかえるハメになってましたからねー。異文化の咀嚼には時間がかかるもんです。
(2006年、日本人アーティストのトミイ大塚を迎えた第二期が製作されたが、翻訳mangaの洪水の中では、あんまし話題にもならんかったような)

で、マンガバース第一期の失敗に学んで本格的にmanga路線再チャレンジ!を狙ったのが2003年のTSUNAMIレーベルだったのでした。

中編につづく。


あ、今回Archie Comicsとかの話は割愛。
つか、おっさんとにかく落ち着け。幼馴染とお嬢様二択って男の永遠の課題なのか…。
まさかこの後ベティがnice boat.で旅立つ展開に…?