蜘蛛之巣城

高橋ナツコ&花森ぴんく『サファイア リボンの騎士』レビュー Part 1

先日、ひょんなことから高橋ナツコ&花森ぴんく『サファイア リボンの騎士全四巻を入手。
そんな訳で、せっかくだからレビュー書いてみるか!(デス様かいっ)

主要登場人物

主人公:藍音サファイア(白金学園女子中等部二年)。
オリジナル版サファイア姫の子孫設定。

異世界・シルバーランドの王女だが、シルバーランドでは女子に王位継承権が無いため、出生時に「王子」とされる。

幼児期に内乱により父母は死亡。侍従らと共に現代日本に移り住む。
王位継承者の証である魔法の宝石(プレシャス)を持ち、宝石の力で「リボンの騎士」に変身する。

設定上は「ボーイッシュな女の子」となっているが、物語上は別にそんなことはなかったぜ?

※行動目的:故国・シルバーランドの奪還


相手役:フランツ・チャーミング(白金学園女子中等部三年)。
ゴールドランドの第二王子。故国はフランツが乳児の頃に滅ぼされた。
オリジナル版のフランツとの関係は不明。

故国を滅ぼした敵として、「シルバーランドの王子・リボンの騎士」を憎んでいる。
シルバーランドのものと対になる、ゴールドランドの宝石の欠片(1/3)を持つ。宝石の力で「エメラルドの騎士」に変身。

※行動目的:故国・ゴールドランドの再興?リボンの騎士への復讐?


ラスボス:魔女ヘル夫人
オリジナル版ヘル夫人と同一人物設定か?
シルバーランドとゴールドランドの宝石によって封印されていたが、封印が弱まり、部分的に復活。
魔物を送り込んでゴールドランドを滅ぼし、ジュラルミン大公をそそのかしシルバーランドに内乱を生じさせた。

※行動目的:全ての宝石(プレシャス)を破壊し完全復活。


ライバル:白綺ヘケート(白金学園女子中等部二年)。
ヘル夫人が生み出した人造人間。サファイアのクラスに編入してくる。
「本物の女の子」になるために、宝石を持つ王子に恋するようにプログラムされている。

※行動目的:恋をして本物の人間になる。


サポート役:チンク
…恐ろしいことに、最初から最後まで、こいつがどういう存在なのか作中で明確な説明は無かった。

オリジナル版チンクとの関係は不明。少なくとも「天使」ではない。
宝石の精か何かかとも思ったが、宝石が割れてもピンシャンしてるので、その線も消えた。

多少の魔法が使える解説役だが、ゼル伝時のオカリナのナビィなみに「いらない子」。
ポジション的にはセラムンのルナだが、登場せずともストーリー展開に支障はない。全く支障はない。

※行動目的:サファイアと宝石(プレシャス)の守護。


サポート役:ブラッド
フランツの生き別れの兄。空飛ぶ帆船を駆る海賊。
ヘル夫人を倒すためシルバーランドのあるソラシマを砲撃。
ゴールドランドの宝石の欠片(1/3)を持つ。

※行動目的:ヘル夫人に復讐?


敵役:ジュラルミン大公
ヘル夫人にそそのかされて、シルバーランドの王位簒奪を企んだ宰相。

魔物のゴールドランド侵攻を看過し、サファイアの両親の暗殺を企み、サファイアから王位継承者の証を奪うために何度も襲い、偽の宝石で国民を騙して戴冠しようとし…と、どう考えても斬首もの。 どんなに甘く見積もっても辺境の地で蟄居相当の行動をとっているのだが、最後は「魔女に騙されていた」との理由でお咎めなし。シルバーランドの宰相にとどまる。どうなっとんじゃ。

※行動目的:王位簒奪の為に宝石(プレシャス)奪取。


敵役:ソーマ
ジュラルミン大公の息子。日本での仮の姿はロックバンド「プラスティックス」のボーカル。

父親やヘル夫人の企みとは別の思惑で行動。
第四話の時点でサファイアが女であることを知ったのに、何故かその事を公表してサファイアから王位継承権を奪う(そして合法的に宝石没収)こともしない。

ゴールドランドの宝石の欠片(1/3)を持つ。
ヘル夫人が退けられた後はヘケートに宝石の欠片を与えて偽リボンの騎士に仕立て上げ、ゴールドランドの宝石の奪取を試みるが、その理由は結局作中で明かされることはなかった…何だったんだ。

ちなみにサファイアの親友真珠にちょっかいを出して惚れさせたりしていた伏線があったが、投げっぱなしで終わった。

※行動目的:最後までナンダカよくわからない…


敵役:ナイロン卿
ジュラルミン大公の部下。
何か思惑があってソーマと行動を共にしているような伏線が4話であったが、投げっぱなしで終わった。

※行動目的:ソーマに同じ…

物語の基本構造

舞台は現代日本。主人公は普通の中学生女子。

シルバーランドは異世界にあるのだが、突如城周辺の土地が日本の上空に物理的に出現(しかし通常の方法では上陸できない)。
山場ではシルバーランドに乗り込む展開があるが、基本は学園もの。

話を転がす核になるのはサファイアとフランツの持つ魔法の宝石(プレシャス)の争奪。


基本フォーマットは『美少女戦士セーラームーン』であり、そこに無理やり『リボンの騎士』の要素を入れ込んでいる。
その為全く機能していない設定、キャラクターが多数存在。その筆頭が「男装」である。

「女子は王位を継げないので出生時に男子と偽った」という設定は、ストーリー展開上全くの無意味。この設定がなくとも、ストーリー展開に支障はない。全く支障はない。

「男の子のハートと女の子のハートを飲み込んだ」という設定もオミットされているので、チンクの存在も無意味。


変身時以外は普通の女子中学生なので、愛するフランツに自分が女であることを告げられない苦悩もない。
女であることを暴かれて王位継承権を失うサスペンスもなし。

フランツに「リボンの騎士はゴールドランドを滅ぼした悪」と誤解されているものの、藍音サファイア=リボンの騎士とは思われていないため、学園ラブコメパートでの障害はなきに等しい。

更に「リボンの騎士=悪」という誤解も早い段階で解け、同一の敵と戦っていることも判明するので、その時点で正体を明かしても一向に差し支えないはずなのだが、なぜか正体ははヒミツにしたまま(何故???)

主人公は日常的に「普通の女の子であること」を自由に満喫している。
つまり、主人公は事実上「戦闘時にのみサファイア王子に変身する亜麻色の髪の乙女」。

『リボンの騎士』を『リボンの騎士』たらしめている設定の大半が無意味……!!!!

Concorde fallacy

…さて。
これが単なる「不発に終わったりなちゃ系変身魔法少女もの少女漫画」ならば、現れては消える泡沫作品の一つとして、速やかに忘却されて終りであろう。

しかし恐ろしいことにコレは、
日本の漫画史初の長編少女マンガであり、その後五十数年にわたって多くの大物作家たちがオマージュを捧げてきた手塚治虫の名作『リボンの騎士』のリメイク(しかも本編から直接繋がる子孫設定である)であり、現存する最古の少女漫画雑誌『なかよし』の創刊55周年企画であり、手塚治虫生誕80周年記念企画なのである。

恐ろしい。恐ろしすぎる。

この企画の何が恐ろしいといって、この作品が世に出ることによって幸せになった人間は多分一人もいないというところ。


風が吹けば、どこかで誰かが儲かっているものだが、この企画に関しては得をした人間がいるとは思えない。

脚本家、作画者、担当編集者、雑誌編集長、誰一人としてキャリアにプラスになったとは思えない。
単行本の売れ行きを見るに、『なかよし』読者の小学生女児の支持も受けていない。
手塚ファンは悲憤慷慨、原典にさして思い入れのない大人も眉をひそめている。
手塚の遺族がこの企画から得た金銭もタカが知れているだろう。

しかも、結果として皆が損をした、ということではなく、企画の段階から著しく無理があった。失敗は目に見えていたにもかかわらず、それでも強行せざるを得なかった。

なんかそこらへんに、組織が間違った意思決定に追い込まれる負のスパイラルちゅーか、コンコルド効果のサンプルケースというか、そういう悲喜劇の存在を感じて興味深いっちゅーか。


しょーじき、企画発表から連載中は
「(ニヤリ……)へへっ。手塚信者さんよ。おれたち梶原者が『花形』で受けた苦しみを、思う存分その身で味わってみるがいいさ………!!」
などとニユニユしていました。

しかしながら、今回通読して現在の少女漫画雑誌のあまりの袋小路っぷりに愕然とし、また原典をリメイクするにあたって改変せざるを得なかった種々の設定に、この半世紀の日本の「少女文化」の変遷について真剣に考え込んでしまいました。


そんな訳で、これから数回はリメイク版リボンの騎士の解析ネタが続きます(おちゃらけ突っ込みじゃなくて、しごく真面目なものになる予定)。