蜘蛛之巣城

ガールコミックス

タケダ・サナさんのシーハルクピンナップ

Girl Comics
 The Sensational She-Hulk #40
「これでページかせぎしてくれやShulkie」
「ちょ…マジなの?」

今月、Marvelコミックスから国際女性デイ(3月4日)を記念した、女性作家・編集者による女性キャラクター中心のアンソロジー・ミニシリーズGirl Comicsが刊行開始されました。

作家カタログ的な意義はあるけど、こういう変に構えた企画本って趣味に合わないわーとスルーしていたのですが、なんか、1号についてるタケダ・サナさんのShe-Hulk ピンナップに対して、「敏感な皆さん」が大層お怒りで。

タケダさんといえば以前Heroes for Hireのカバーアートで触手プレイをやらかして一部で物議をかもした方ですが。またかいw


今回のピンナップはShe-Hulk の30周年企画で、92年に刊行されたSensational She-Hulk #40のパロディ画になっています。

She-Hulkというのはもともとコミカルな要素の強いタイトルだったんですが、この 40号というのがまたトンデモなくて、編集者に 「ページ配分ミスって空きページが出ちゃったからコレでページかせぎしてよ♪」と頼まれた…という体で、表紙~6ページ目まで、シーハルクが縄跳びをする場面が延々続く。

しかも縄跳びのスピード線のお陰で胸と股間の辺りが隠れて、全裸で縄跳びをしてるように見える…という悪ふざけ本。

表紙からしてシーハルクが自主規制マークで懸命に体を隠してる絵だったりします(ジョン・バーン閣下は偉大です)

それのパロで、縄にひっ絡まって転んだら、実はちゃんと水着をつけてましたよ、残念でしたスケベ野郎ども…って感じなのかな。
(どうせパロるなら表紙のコミックスコードおちょくりネタにしとけばよかったのに)


 Heroes for Hire #13
でんせつの「テンタクル」カバー

これを女性側からの男性視線に対する批判を込めたパロディとして成立させるには、もっと「こんなセクハラネタで喜んでるんだから、オトコって馬鹿で幼稚でどうしようもないわねー」 と笑い飛ばす姿勢をはっきり出さないといけないと思うんですが、何せ作画がタケダさんだからなー。


タケダさんの絵って、とろんとした目つきといい、ねっちょりしたカラリングといい、セクシーとかエッチとかいうレベルじゃなく、露骨に「セックス」を想起させられるんだよね。

それもアダム・ヒューズの巨乳みたいな陽性のエロじゃなくて、日本的情念を引きずった陰性のエロス。

だからパロがパロとして成立してなくて、笑えない。絵のコンセプトは編集指定なんだろうけど…完全に人選ミスだよなー。


フェミ系論客さんからは"cheesecake pin-up"だの"you can't read without being assaulted by a sexually suggestive pin up." だの地雷だのなんだの…。

フェミな皆さんはそもそものGirl Comicsというタイトル自体もお気に召さないくらいだから。何でWoman Comicsじゃないのよー!って。

まぁ、あんまり過激な煽り口調に対しては、「マッキノンやドゥウォーキンみたいな基地外フェミニストの同類に見られてドン引かれるよ」 と複数人がコメント欄で苦言を呈したりしてますけど。

Swimsuit Specialのトラウマ

そのコメ欄で「じゃ、『ボーイコミックス』には男性キャラのエロピンナップつける訳?そんな事しないでしょ。やっぱり女性蔑視よ!」というやりとりから脱線して、90年代アメコミバブル期に出された Marvel Swimsuit Specialの話題に発展したりしてます。


90年代、各社スイムスーツスペシャルと銘打った女性キャラ中心のセクシー水着イラスト集を出すのが流行っていました(バッドガールもので人気のインディ系はランジェリースペシャルなんかも出してた)。

メインの売りはフィメールヒーローのセクシーショットだと思うんだけど、女性キャラオンリーだと色々と突っ込まれるからか、公平を期して(?)男性ヒーロー達のセクシー水着姿も収録されてた。

が、それが凄い方向に暴走しておりまして。

さぶテイストのコロッサスとか


武田久美子スタイルのサブマリナーとか


髑髏のペニスケースいっちょのパニッシャーとか


どう見てもゲイ雑誌のグラビアな
ノーススターとかっ


…あの、どういう層に向けたサービスなんですかコレ。
当時まんがの森で立ち読みしていた私は、うっかりハッテン場に足を踏み入れてしまったような気まずさを感じておりました。


これって女性読者に対するサービスなのか、男性同性愛者に対するサービスなのか、趣味性の発現なのかポリティカルコレクトネスなのかギャグなのか。

「アメリカの平等思想って突き抜けてんなー」と当時の私は変に感心したものですが、実は本国のマーヴェル読者も「あれは流石にトバし過ぎ」と思っていたらしく、I wonder how many tender, young minds were scarred forever by that image.(アレを見た純真な若者の心にトラウマを残してるんじゃないか)とか書かれてましたwww


人間の裸(半裸)の絵といっても、そこに込める意味合いも色々、受け手の感覚も色々だしなー。
異性愛者が異性の体を性的な視線で見たり、同性愛者が同性の体を性的な視線で見たりの他に、異性愛者が同性の体を見て「眼福」を感じたりする場面もあるし。

つーか、そもそも「女性作家のみで描かれたフィメールヒーロー中心のアンソロ」だからといって「女性読者のみを対象にした本」ではないんだけど。
論客の皆さんは「これは女性の為の企画なんだから、女性の人権に配慮した『安全』な描写のみで構成されるべき!」という前提で議論してるのがニンとも。

タケダさんの今回のピンナップも、なんとなくフェミっぽい意味付けをされた企画本に付いてたから問題視されたけど、シーハルクの通常シリーズに付いていたら普通にスルーされてただろうし。
……「それが問題視されない現状が男視点の価値観に毒されてる証拠なのよ!」と怒られたら一言もないですけど。

実際にどういう意図で描かれたものかの判断はつかないけど、パニッシャーのセクシーイラストは「セクシー水着イラスト集」という企画に対する批評的なジョークとして機能してるからGJなんじゃなかろーか。


どんな描写も個人の趣味嗜好・作家性の問題に還元されてしまう日本と違って、一々社会的な意味を問われてしまうアメコミって不自由でもあり、そこが面白くもあり。

付記)Swimsuit Issueは90年代のキワモノ企画かと思いきや、なんと2010年にGrimm Fairy Tales増刊が出てたり。しぶといぜ。