蜘蛛之巣城

パンテオン・ハイスクール

神獣学園白書《パンテオン》

pantheonhigh#1 Pantheon High 神獣学園白書《パンテオン》1(電子書籍eBookJapan)

なじかは知らねど、ここ数日『神獣学園白書《パンテオン》』関連のワード検索でウチのサイトに来る人が多いんですが…この作品、日本のメディアで話題になったりとか、した??

まぁ、この作品については、ちょっと語っておきたい事もあるので、この機会に紹介しておきましょうか。


原題はPantheon High、Tokyopopが2007年頃に進めていた自社オリジナルOEL-manga作品の内の一作で、原作はポール・ベンジャミン Paul Benjamin、作画はスティーヴン&メグミ・カミングス Steven Cummings & Megumi Cummings。

ポール・ベンジャミンは本作の後、マーヴェルでHULKの脇シリーズの脚本を執筆。スティーヴン・カミングスは元々DCやマーヴェルでペンシラーをやってて、本作後はUDONスタジオで地道にキャリアを重ねてる。インキングを手伝っている細君のメグミさんは日系で、今は二人で日本に住んでるらしい。


pantheonhigh#3 Pantheon High #3

そんな元々メインストリームのヒーローコミックを手がけていた人達の作品なので、manga-kaワナビの新人が描いていた他のTPオリジナル作品とはちょっと毛色が違い、「ヒーローコスチュームは着ないけど、作品構造的にはニューミュータンツとかと相通ずる処があるmanga作品」で、アメコミと日本マンガの融合的作品としては、わりと洗練された企画だったと思う。

設定は、世界中の神々の子息である神や半神の若者達が通う学校「パンテオン・ハイスクール ロサンゼルス校舎」を舞台にした青春アクションファンタジー。

ジョックスやクインビー、負け犬ギーク等の織り成すアメリカン学園ドラマの典型に、マニアックな神話ネタを組み合わせた構造。


作画のカミングスはもともとヒーローものを手がけていたので基礎画力はちゃんとしてる。翻訳版のある1巻目ではまだまだマンガ文法的にこなれていなかったが、続巻では格段に進歩しています。


Pantheon High Volume 3 "Midterms & Mayhem"より
Pantheon High © 2006-2010 Paul Benjamin, Steven Cummings, and TOKYOPOP Inc.

単体の作品としては多少欠点はあるものの、設定やキャラクターをシェアして、スピンオフ作品やゲーム等の二次著作物展開をするにはうってつけのタイトルだろうと思っていたのですが、何故か版元のTOKYOPOPからは冷遇。

単行本2巻まで出版された後、北米mangaバブル崩壊を受けて3巻はデジタル出版のみで公開。

付記) 2014年現在、モンスターズ・ハイなどのファンタジークロスオーバー学園ものフランチャイズのヒットぶりを見るにつけ、この作品を冷遇したTPのセンスのなさが改めて悔やまれる。

TPのゴリ押し作品群

halloween I Luv Halloween #1

往時のTPが営業的に力を入れていた作品は、

  • Princess Ai―プリンセス・アイ物語
    :セレブミュージシャン原案で社長がシナリオを書いているため、作品の出来や実際の人気を度外視してゴリ押し。
  • Bizenghast ビゼンガスト
    :ゴス少女に受けてスマッシュヒット。
  • Dramacon ドラマコン
    :OEL作品としてはトップクラスのクオリティ。業界の評価も高い。

が三巨頭、以下

  • A Midnight Opera ミッドナイト・オペラ
    :ゴス系。バンドものダークファンタジー。可もなく不可もなし。
  • I Luv Halloween アイ・ラヴ・ハロウィン
    :ゴスいキモカワ系キャラが大暴れ。表現としてのクオリティは高い。
  • Van Von Hunter イービルハンター
    :元はウェブコミック。二十年前の富士見ファンタジア文庫みたいな話。
  • Riding Shotgun 【合法殺人】リーガル・キラー
    :箸にも棒にもひっかからない駄作。出版レベルじゃないだろコレ。

実際に売り上げで良い結果を出していたビゼンガストとドラマコンがプッシュされるのは当然だし、シャチョーがプリンセスアイをゴリ押しするのも、大人の事情的には納得できる(そのリソースをもっと実のある事に使ってりゃよかったのに、とは思うけどさ)。


アイ・ラヴ・ハロウィンは個人的には好きな作風じゃないけど、ゴス少女向けのキモカワ系キャラグッズのネタ元として優遇されるのは分かる。

イービルハンターは、ショウビズ・ワナビなシャチョーが自主制作映画を撮る口実として利用されたので、まぁわからんでもない(ちなみに映画は原作マンガとは何の関係もない内容。完全オリジナル企画では製作資金が集められないから、ウェブコミックとして多少の知名度のあった原作が利用されただけ)。

ミッドナイト・オペラは…市場の作品評価は高くなかった。叩かれるほど酷い出来でもなかったが、積極的に褒めたい処もない。いまいちレビュー書く気がおこらん作品。プッシュされたのは、ゴス系バンドものという事で当時TPが手を出していた音楽配信事業に利用しやすかったからじゃないかと。


…ここまでは、まぁ、いい。
わかんないのはRiding Shotgun 【合法殺人】リーガル・キラー
言うたらなんですが、「何でこんな出版企画が通ったの?」というレベルの作品。

Riding Shotgun 【合法殺人】リーガル・キラー

ridingshotgun Riding Shotgun #1

Riding Shotgunは、TPとしては珍しい「青年漫画」で、ライセンス制の合法殺し屋の存在する世界が舞台のバイオレンスアクション。

そもそも脚本自体がオソマツで、苦境に追い込まれる際の主人公の選択にまるで説得力がない。論理的にも心理的にも必然性がない。感情移入ができない。


それでも作画面で見応えがあれば救われるんだが、これが脚本に輪を掛けてヒドイ。
脚本と作画が別なのに、何故この作画者をコーディネートしたんだか。

作画のトレイシー・ヤードリーはSonic the Hedgehogのコミック版の作画を手がけたりしていて素人じゃぁないんだが、カートゥーン調の絵柄で劇画向きの人材じゃない。
銃器や車、格闘技へのこだわりもないし、アクションシーンに重量感やリアリティもない。

英語圏では既にガンスミスキャッツが紹介されていて、新たにmangaを名乗って賞金稼ぎガンアクション&カーチェイスものを企画するなら、どうしたってアレくらいのレベルを期待されるだろーに、問題外のアクション描写。

主人公は女の色香で身を誤るんだけど、女性キャラにセクシーな魅力がぜんっぜんないもんだから、ストーリー展開にまるっきり説得力がなくなってる。

特に主人公の相棒の女。衝動的に行動して主人公に迷惑をかけまくるけど、性的魅力満載なせいで切り捨てられない…という設定なのに、ビジュアル的な説得力がないから、只のめんどくせぇバカ女にしか見えない。読んでる方としては「真っ先にこの馬鹿アマをぬっ殺せよ」とか思っちゃう。


事ほど左様に、褒めるべき点が微塵もない作品なのですが、何故かTPではフラッシュアニメ化されたりと優遇。なんでやねん…とずっと思ってきたのですが、それも最近北米出版事業撤退の際の作家達の発言を読んで、なんか納得しました。

TPとしては、「漫画作品としての出来」はどーだっていい。未完でも一向にかまわない。「映画原作として売りやすい」というのが一番重要視されてた。

Riding Shotgunは確かに映画企画としては売りやすい設定だ。実際出来上がった作品がタイトルと基本設定だけ同じで後はほぼオリジナルでも、ショウビズワナビな社長的には全然OK。

だからスピン企画展開で漫画シリーズ自体の広がりをもてたであろうPantheon Highや、アメリカにおける漫画作品として画期的なところに挑戦していたOff*beatは冷遇されてたんだ。あの社長、アイズナー賞ノミネート等のコミック/出版業界からの評価にも無関心だったらしいし。

Pantheon Highは他社に持っていけば化けるかもしれないタイトルなんだけど、TPは本を出す気もないのに映画化権等のライセンス商売用に権利を抑えちゃってるから動かしようがない。マーヴェル/ディズニーあたりに向いてそうな設定なんだけどねぇ。モッタイナイ。

付記) 2013年夏、Riding ShotgunはMondo Mediaによりネットアニメ化。YouTube channelでの無料公開版がそれなりのアクセスを稼ぎ、2014年春にクラウドファンディングで追加エピソードの制作費を募ったが失敗。