蜘蛛之巣城

RE:Play ヴァンパイア・ロック ~夜想の旋律~

Christy Lijewski

replay1 Re:Play #1

クリスティ・リュウスキーは、90年代北米mangaブーム以降のコミックアーティスト。

(ソフトバンククリエイティブによる邦訳電子書籍では「ルジェスキー」表記だが、本人はポーランド語発音の「リュウスキー」を公式のカタカナ表記にしたい意向なので、当サイトではこちらを採用)

ブーム終了後は同期のmanga系作家がメインストリームの作画や小説のコミカライズに移行する中、頑なにオリジナルmangaを描き続けてる、筋金入りのmanga-kaさんです。

商業作家としてのキャリアは以下の通り。


2003年に今は亡きI.C. Entertainmentの月刊OELmanga誌AmerimangaにてZombie Kingを連載。
…ただし、本人のサイトには第2話までが過去仕事としてデータ掲載されているものの、掲載号は市場ではいくら探しても見つからず。一般販売されたかどうかは不明。出版社の倒産間際の話なので、同誌掲載作家の多くは原稿料の支払いをバックレられたという噂も聞くが…?

当サイト内の関連記事:あめりまんが 2009-5-10

その後、2004年にTOKYOPOPの新人コンペRising Stars of Mangaに入賞。
この時点ではTPと契約は結ばす、 同年、入賞作を基にしたNext Exitをインディ出版社Slave Labor Graphicsから刊行。しかし未完。

2006年にTOKYOPOPが大々的に行った「グローバルマンガ」プロジェクトに参加。描きおろし単行本でRE:Play(邦訳題名「ヴァンパイア・ロック ~夜想の旋律~」)Volume 1を刊行。熱心な固定ファンを得る。

2008年3月にはVolume 2が順調に刊行されるものの、同年、北米mangaバブル崩壊。
多くの「グローバルマンガ」が刊行打切りもしくはwebのみで発表、という扱いを受ける中、大幅に遅れたものの2009年末に完結巻を紙書籍で刊行。

mangaバブル崩壊後にTPから紙本が刊行されたオリジナル作品は、本作とビゼンガスト、あとは社長のゴリ押しプリンセスアイ続編のみ…というデータを見れば、忠実な固定ファンの存在がご納得いただけましょう。

イマドキのmanga-ka

replay2 Re:Play #2

…で、作風なんですが。
カバーアートを見れば一目瞭然と思いますが、久保 "オサレ" 帯人師匠のファン。

絵柄だけでなく作劇メソッド等も似ていて、要するに、80年代に高河ゆんが同人から商業に持ち込んで、00年代に天下の大メジャー週刊少年ジャンプで久保帯人が完成させたというか、突き抜けさせちゃった、

「厨2心くすぐる大仰な設定や思わせ振りなキャラの過去話をチラつかせつつ、実際の作品としてのウリはキャラ及びその関係性で、『物語る』事は二の次、カッコいい場面、カッコいいセリフを『魅せる』事に心血をそそぐ」

タイプの作家です。


ぶっちゃけ、オールドスクールな漫画読みの私のような人間にとっては興味の持てない作風なんですが、非常に「イマドキ」なOELmanga作家代表として、紹介する価値はあるかなーと。

実際、日本の

「ジャンプ作品の二次創作から出発して商業進出し、一迅社だの新書館だのでオリジナルを描きつつも軸足は未だ同人の方においていて、イベントシーズンになると連載誌の近況欄でスペース番号の告知をする」

ような女性漫画家とスタンスの近い作家さんですね。レイヤーさんだし、アーティストアレイでブリーチのファンアート売ってたりするし。

RE:Play

で、本作。

カレシ兼べーシストに裏切られたばかりのヒロイン・クリーは、ある日記憶喪失の青年イザークをスカウト。
義兄レイルの反対を押し切って三人で同居生活を始める。

バンド活動は順調だが、イザークを監視する謎の組織の存在に気付いたレイルは彼の正体を探り始める。

果たしてイザークの正体はサイコパスの殺人鬼かヴァンパイアか、それとも…?


Re: Play Volume 3より
RE:Play © 2006-2010 Christy Lijewski and Tokyopop Inc.

というのが基本ラインなのですが、前述の通り物語よりもキャラとその関係性を描写するのがメインな作品です。

ツンギレ兄貴のレイルと、亡き母の思い出を乗り越えられない義妹クリー、人外らしき謎めいたイザークの三角関係。レイルと女装男子のチャー、その双子の兄でクリーの元カレのエドとの関係。イザークの監視者、ニジとローランの過去話。


アクションシーンはあるけどガチバトルじゃないし、最終的に人外ヒーローが少女の愛で救われる「美女と野獣系パラノーマルロマンス」でまとまっています。

後書によると、作者はショーネンマンガ志向でゴアなバイオレンスアクションものを描きたかったが、「ショージョを描いてくれろ」という編集からの要請でこうなったそうで、「ゴスなバンドもののショージョマンガ」というTPのメインターゲット向け作品に落ち着いてます。

…と何気に書いたけど、雑誌毎に対象読者の年齢性別嗜好が絞り込まれる日本では起こり得ない事態ですな。

単行本は2/3が本編で、レイルとチャー、ニジとローランの過去エピソード2本が分載弊録という構成になっており、そういう処も「キャラクターもの」らしい(巻末には結構なボリュームでキャラのイメージソングだのアーティスト仲間の描いたキャラ絵だのがあるあたりが同人っぽい)。

描きおろし単行本という形態

replay3 Re:Play #3

ただ、これはこの作家だけの問題ではないのですが、 日本の週刊少年漫画の翻訳単行本でマンガにハマり、コマ割りやページ配分を学んで、その手法のまま「1年に1冊の描きおろし単行本として新作を発表する」というのはドーなんだろうと思うんですよね。


本作、一応完結はさせてますが、はっきり言って打ち切り進行(出版社側が全4巻だの全3巻だのと言う事がコロコロ変わって構成に苦労したらしいんですけどね)。

色々と敷いた伏線は大半が未消化で、結局イザークの正体と追跡者の目的が明かされ、人外なイザークを、それでも愛してゆくとクリーが誓う…という、長期シリーズのセットアップくらいの処で終わってます。

順調に刊行されてたとしても、年1冊として、セットアップで3年。ティーンエイジャーを主な読者対象とした作品で、このテンポはキツい。読者が成長し、作品を卒業して行くスピードと、作品の進行スピードが合わない。
まー、日本の週刊連載作家の生産量が異常なんだけどね。

TPグローバルマンガ「勝ち組」のスヴェトラナ・シマコヴァ(ドラマコン)とクイーニー・チャン(ドリーミング)が、「年1冊描きおろし刊行、単行本3巻完結」という発表形態にマッチした構成の作品をきっちり完結させて次のステップにつなげていったのと比べると、媒体に合わせた表現って、大事だよな~と思う。


あと、邦訳版は訳がちょっとよろしくない感じ。キャラものは台詞回しの魅力も必須なのに、直訳調のぎこちない会話はいただけない。

そして邦題は「ヴァンパイア・ロック」になってるんだけど、イザークがヴァンパイアでは…どいうのはミスリードなので、邦訳が続いてたらタイトル詐欺になってたハズw


本作終了後、リュウスキー先生はメインストリームやコミカライズには行かず、コンベンションや通販での同人誌販売やコミッション、プリント販売、無料webコミック等の活動を続けておりました。

こういうスタイルの作家が、北米の商業漫画家としてどういうポジションに落ち着くのかはかなり興味があるので、今後も注目したい処。

追記:諸刃の剣

2014年7月9日追記:
…と、いう訳で2007年~2014年初めあたりまで活動を追ってきましたが、結論としては「コミュニケーション・ツールとしてのmangaの暗黒面に堕ちたな」って感じ。

島本和彦先生が1999年刊行同人誌『燃えよペン~マンガ力指南編』の中で、二次創作はマンガ力を身につける助けになるが、一方で「この空間から永遠に脱出できなくなる可能性も秘めた禁断の手法」「それをやっているときのサナギ状態から必ず脱皮することを念頭におくこと」と釘を刺しておられるように、プロ予備軍や新人作家にとっては諸刃の剣。

英語圏のオタク界は特に、本気でプロとしてやってくつもりなら二次創作とは一旦きっちり決別しないとズブズブになっちゃうからねぇ。

(近年プリキュア同人誌を数冊手がけた島本先生ご自身は、二次創作で身につけたテクを商業連載の女子キャラの描写に生かしておられます。50代に突入しても作家として成長の余地があるのは凄いよなー)