蜘蛛之巣城

「コミュニケーション・ツールとしてのmanga」の暗黒面

描き手と読み手の距離

北米マンガ事情第9回 北米でオリジナル作品を発表するMANGA家たちで椎名ゆかりさんは

日本のmangaの絵は例えばフランスのBD(バンド・デシネ)の作品と比しても、とても親しみ易く(実際にどうかは別にして)自分でも描けるような気がしてしまう。

容易に描けるということは自己表現の手段として容易に使えるだけでなく、描いた自分の作品をネタに同じものが好きな人と繋がることも容易にできる、ということだ。そしてそれは世界的なmanga人気の重要な要素と考えられる。
(略)

「コミュニケーション・ツールとしてのmanga」では、描き手と読み手の距離が近い。北米の読者はネット上で作家と頻繁に交流し、OELmangaの作家の気持ちを共有していた場合も多く、OELmangaというジャンルで活動する作家の自意識を強く感じ取っていたかもしれない。

と評しているのだけれど、「容易に描ける(ような気がする)」「描き手と読み手の距離が近い」せいで、OEL漫画家はそれを囲むファンとの間の「プロフェッショナルとそのプロの技の消費者」という線引き(ケジメ)に失敗しているような気がする。

そのダークサイド

DAで沢山の崇拝者を集めてるOEL漫画家も、いざ有料コミッションを始めると「クリスマス前でお金がないから」とか言い訳コメントが続々寄せられ、カラーの描きおろし$50が「高すぎる」と言われる様を見てると、椎名氏いう所の「コミュニケーション・ツールとしてのmanga」の暗黒面を感じる。

街頭似顔絵描きじゃあるまいし、コミッションとはいえ、商業出版経験のあるプロへの原稿依頼なのに。 anime絵はネットにタダで転がってるのが当たり前…というのがリア厨外人otakuの感覚になっちゃってるんじゃなかろーか。


文章を書く事も、人前でおもしろげな話をする事も、マンガっぽい絵を書く事も、レベルを問わなければこなせる人は多いけど、それで生計を立てるプロは、それを「対価を要求できるだけの技能」に高めるべく日々研鑽を積んでいるはずなんだけどね(マトモな人は)。

スキャンレーション文化に慣れきった若いotakuにはそれが理解できないんだ。

まぁ、OEL漫画家の一部にはファンと一緒にファンサブやスキャンレーションのリンク紹介をしあってキャッキャウフフしてるようなプロとしてのケジメのないのもいるし、そういうのには全く同情できないけど。

公認ファイル交換と「貢ぎたい欲」

The Makeshift Miracle

カプコンとの提携で有名なUDON Entertainmentが、新作コミックを無料ウェブ連載→書店売りのグラフィックノヴェル化のpublishing experiment(出版実験)の一環として、Jim Zubkavichが2001年~2003年までウェブコミックとして連載していた The Makeshift Miracleのリメイク版を公開しています。

参考外部サイト:The Makeshift Miracle

無料ウェブ連載→書籍化自体は別に本邦でも珍しくはないのですが、UDONの試みは更に大胆。

Download the torrent file, pass it around, re-seed as much as possible and convince your online friends to try it out, absolutely free.
(torrentファイルをダウンロードして、交換して、できるだけ沢山の人にre-seedして、そしてあなたのオンラインの友達に、必ず無料で、それを試し読みするように説得してください)

単に公式サイトで無料公開するだけじゃなく、出版社みずからBitTorrentにPDFとCBRファイルを放流して、じゃんじゃんファイル交換して拡散してくれ!って頼んでるんですよ。

どうせ必死になって違法ファイル交換対策しても徒労だから、いっそ公式でファイルを蒔いて書籍版の口コミ宣伝にしてしまおう。それで出版ビジネスがなりたつかどうか、この企画で実験してみよう…という訳です。

CBR(Comic Book Rar)ファイルって、漫画の違法ファイル交換によく利用される形式なんですが。


最近自社タイトルのファーストリリース総デジコミ化を敢行したSlave Labor Graphicsも、「コミック違法DLのヘビーユーザーにはこのファイル形式が一番馴染み深いから」という理由で、販売するファイル形式の中にCBZ(Comic Book Zip)を組み入れざるをえなかったという…。

色んな意味で気になる実験ですので、今後も推移を見守っていきたいと思ったり。

Jim Zubkavich & Shun Hong Chan

makeshiftmiracle
Makeshift Miracle Book 1: The Girl From Nowhere

本作のオリジナル版作者のJim Zubkavichさんは、在カナダでカプコンコミックやオリジナル作品を描いてる中堅作家さんで、Udon Entertainmentではアートディレクター兼スタジオマネージャー。

旧作はウェブコミック黎明期としてはある程度の評価を受けた作品で、単行本化もされている。
その200ページ程度だった旧作を新鋭アーティストを迎えて総ページ数400ページの上下巻本としてリメイク、脚本も大幅見直し…という事のようです。

作画担当のShun Hong Chanさんは、香港在住。

このインタビューを読むと、香港の漫画出版事情が色々うかがい知れますね。
去年は漫画不況で仕事がなくて広告イラストばっかりやってたとか。主力はmultiple 30+ page weekly comics…て、マジ?アメコミより日本の週刊少年誌より生産量多いじゃん?!ナニその無茶体制!

お陰で作画スタジオは顔担当、体担当、背景担当、彩色担当の分業制の大所帯と。ここら辺はアメコミ式ですな。
つーか、ケビン・ラウの叔父さんは漫画出版社経営してるのか…。


Shun Hong Chanさんのアートは見てのとおり繊細な水彩調(作画ツールはCorel Painterとか)のmangaとアメコミの融合スタイル。情感があって日本人受けしそうな感じ。

ある日突然空から美少女が降ってくるのは、古今東西を問わぬ男の夢ッ!