蜘蛛之巣城

TokyoPop、それぞれの『後日談』

Off*Beat 完結

SparklerMonthly09

今月の18日金曜日に有料購買会員に先行公開されたSparkler
Monthly誌 #009号
をもって、ジェン・リー・クイック先生の『Off*Beat』が完結しました。

TokyoPopの「グローバルマンガ」として第1巻が刊行されたのが2005年9月、日本語版電子書籍が配信開始されたのが2007年2月23日。

3巻完結の最終巻は2008年8月に刊行が予定されていたが、2008年夏の北米mangaバブル崩壊によって刊行延期→無期限棚上げ→2011年5月にTPは出版事業撤退…と完結のメドが立たないままズルズルと時間が過ぎ。

2013年春、TPを退職した元クイック先生担当の敏腕編集者Lillian Diaz-Przybylが有志と共に立ち上げたインディーズ出版社Chromatic Pressがかなりの大金を払ってTP社から作品の権利を買い取り、新創刊の月刊web雑誌『Sparkler Monthly』で完結編を連載すると発表。

2013年4月から既刊2冊の復刊クラウドファンディングを開始。出資者186名 総額$8,673を達成。
同年8月から完結編を連載開始し、2014年4月にようやく完結…最終巻の紙書籍は描きおろしボーナス付きで7月に刊行予定。

2巻刊行(2006年11月)から数えて7年半後にして、大団円をむかえた訳です。


本作はティーンを主な対象とした青春ドラマであり、当時10代後半だった読者は既に20代半ば。
その内の多くが作品に対する興味を失い、漫画を読む習慣からも卒業していておかしくないにもかかわらず、このように長いブランクを経ても完結する事ができた。制作環境に山坂はありつつも、幸福な作品といえましょう。

完結編の内容については、個人的にはもう少しビターな方がいいのでは?とも思いましたが、クイック先生の言によると「初期構想ではもっとトーリにとって厳しい内容になるはずだったが、自分も年齢を重ねたせいか思春期の若者の愚かさに対して寛容になった」のだそうで。

ちょっと甘めのラストは、長い間完結を待ち続けた愛読者に対するボーナスでもあるのかな。

付記1) よく読むと、エピローグは妄想オチとも受け取れるな(コマの枠外が黒塗りになってる)。
付記2) 単行本3巻末でクイック先生の新作西部劇『GATESMITH』が8月から連載開始の告知有。順調に作家活動ができているようなので一安心。

TokyoPopの失敗クラウドファンディング

ところで。

奇しくもというべきか、古巣にして作品を冷遇し続けてきたTokyoPopも二つのクラウドファンディングを募っていました。

ひとつは『Riding Shotgun 【合法殺人】リーガル・キラー』のアニメシリーズ化。(2014年2月26日~4月7日)
Riding Shotgun: The Animated Series

もうひとつは『Bizenghast ビゼンガスト』のPCアドベンチャーゲーム化。(2014年3月19日~4月18日)
Bizenghast Video Game

Riding Shotgunの方は$40,000ゴールを掲げて実際に集まったのは$19,518(228名)
Bizenghastの方は$125,000ゴールを掲げて実際に集まったのは$$51,000(470名)

集まった資金や投資者の数は両ファンディングともOff*Beatに勝っていますが、ゴールを高く設定しすぎて失敗しています。
(KSと違ってIGGでは設定した目標に達しなくとも、プロジェクト発案者に投資金が支払われるので、いちがいに「失敗」とも言い切れないが)


両作品に対する私の個人的評価は以前書いたレビューの通り。

当サイト内の関連記事:Riding Shotgun 【合法殺人】リーガル・キラー
当サイト内の関連記事:Bizenghast ビゼンガスト

ぶっちゃけ、酷評。
「漫画作品」としてはどうがんばっても高評価は差し上げられません。

ただ、この時点で
「ビゼンガストは漫画よりもポップアップ絵本やミスト系アドベンチャーゲーム向き」
「【合法殺人】リーガル・キラーは漫画としては駄作以外の何物でもないが、基本設定だけ残して映像化権を売るには適した素材かも」

と書いているので、一応、読みは正しかった事になるのか。


Riding Shotgunの先行ウェブ公開版アニメはMondo Mediaの作品なので、下品と悪趣味ギャグに徹しきっていて、何もかもがヌルたい駄作だった原作漫画よりはエンタメ作品としての「フック」はあります。私は嫌いだけど、こういう需要は何処かにあるだろーな程度の作品には仕上がってます。

ただ、TP社はクラウドファンディングに投資するような「侠気」あるotakuからはすっかり嫌われていて、この二作の固定ファン以外が「意気に感じて」企画に金を出すようなブランドではなくなっている。

ゴールを高額に設定した投資を募っても色々と厳しいよね。というか、「まだ諦めてなかったのかよ」というか、銀英伝風に言うと「死体が痙攣した」というか。


とはいえ、ショウビズ・ワナビでmangaファンをないがしろにしたTP創業者スチュアート・レヴィのやり口は嫌悪されているものの、その失敗に学んだChromatic Pressが「出版」だけに固執している訳ではなく、こっちはこっちで「コンテンツのマルチメディア化によるマネタイズ」はきっちり視野に入れている。

CP社の新人作家募集ページの詳細を見ると、「応募作について、編集側が『漫画よりもラノベ向き、オーディオドラマ向き』と判断した場合、メディア変更や作画パートナー等の提案をする場合もある」というような記述があります。
ちなみに、その話の際に例として挙げられているのが乙女向けメディアミックス『Starry☆Sky スターリースカイ』…編集者の個人的シュミ?

なんにせよ、創刊の目玉となったタイトルが完結した後がCP社の正念場ですわな。

オーストラリアのスキャンレーション事情

…で、これまたTPの後始末的な話題なんですが。

TPから『The Dreaming ドリーミング ~夢幻学園~』を出しているオーストラリアのクイーニー・チャン先生が、作家生活10周年を迎えたのを機にあちこちのブログやSNSで実体験から厳しい実情を赤裸々に語った "Being a Professional Manga Artist in the West"という文章を公表しています。

オーストラリアの子供は学校のPCで漫画のスキャンレーションサイトを見ている。教師もスキャンレーションサイトの著作権問題について無知なので、学校側も禁止措置はとっていないとか。

チャン先生がワークショップで訪れた図書館で、子供達から「え?!本になってるmangaなんてあるの?mangaってPCでフリーで見るものでしょう?」と真顔で言われて驚いた。
…なんて実情は、流石の私もビックリですよ……。


チャン先生はその対策として、TPと交渉してThe Dreamingの1、2巻を各種ウェブコミックサイトに無料公開、そこで完結巻である3巻の書籍版と電子版の有料販売サイトへ誘導するという形をとっています。

自分は数年前に全3巻プラス書き下ろしエピソード入りの合本を購入済みですが…。
ソフトバンククリエイティブの編集さんにツイッターで日本語訳の可能性を聞いてみたところ、映画版が公開される等の動きがあれば検討されるかもしれないが、それでも可能性としてはあまり…という感じでした。
大騒ぎしたトワイライトのグラフィックノベル版も全然売れずに一冊で打ち止めだしねぇ…3巻収録分が日本語化される事はなさそう…。

付記) まあ、佐藤秀峰の発言の英訳を全て鵜呑みにして若いワナビ相手に「日本のmanga業界はもうおしまい!」なんて説教してるあたり、チャン先生もあんまりリテラシーないのかなと思いますが。