蜘蛛之巣城

Gauntletで小手調べ

エラリー・プライム作、イラスト担当T2Aの『Gauntlet』

Sparkler Monthly誌創刊号から連載開始、10号で完結。$4,500にゴールを設定し紙単行本の予約をkickstarterで募るも苦戦中。
作品に問題があるのか、そもそもウェブ小説の単行本化にあまり需要がないのか。

付記) 終了数時間前に93人 $4,600で達成。作品のファンではないが出版社の試みを支持する、というスタンスの投資者によるサポートの結果か。


この小説の「趣向」を一口で言うと、「館探索・脱出もの」

都会に出てきたばかりの若い女性である主人公が、ひょんな事からGauntletという名の巨大な建造物に閉じ込められ、そこからの脱出を図る。

一旦館に入ると玄関から後戻りは出来ず、管理者側がイレギュラーと見なす行動をとろうとすると武装しマスクをつけた「prowlers」と呼ばれる者たちが実力行使に出る。
館内にはロボトミーか投薬によるものか、正気をなくした「droolers」と呼ばれる人間が徘徊。

生存に必要な物資は、気付かぬうちに館内のどこかの部屋に補充されるので、それを回収しながら進む。

主人公は館に入ってすぐ謎の人物からトランプのモチーフがついたブレスレットをもらう。後にこれがいくつかの扉を開けるために必要なアイテムと判明。
途中でマップを手に入れて行動範囲が広がったり、かと思えば「prowlers」に捕らえられた上で強制移動させられて、現在位置確認からやり直したり。
自分と同じ立場の人間に出会って行動を共にする局面もあるが、敵か味方か定かならず疑心暗鬼に苛まれる。

…と、非常に3Dアドベンチャーゲーム的な趣向。主人公も「どこかの物好きたちのライブアクションRPGにでも巻き込まれたのか?」と独白してます。

さほど斬新な発想でもないけど、描きようによってはいくらでも面白くできそうな枠組みなのですが…これが、あんまり面白くないんだわ。


この趣向で読者を掴んで引っ張っていく場合、代表的な手法は

a. 描写は簡潔にとどめて、矢継ぎ早にイベントを起して読者に手を止める隙を与えない。
b. 主人公の主観に寄り添った濃密な描写で、どうという事のない小イベントにも緊張感没入感を持たせる。
c. キャラを立たせて、更に複数キャラ間に有機的な関係を構築し興味を持続拡大させる。

「展開」か「描写」か「キャラ」か、いずれかの密度を上げる。

キャラ重視なジャパニーズラノベ的複合技だと、

b+c 主人公のモノローグが延々続くが、そのモノローグ自体が非常に面白い(薀蓄まみれだったり、韜晦っぷりに味があったり、非常に特異な思考だったり)
a+c 二転三転する展開の中でめまぐるしくキャラ間の力関係が変化し、単体でもエキセントリックな側面がむき出しになってくる。

あと、イベント内容にマニアックなディティールを付加するという設定厨な方向で密度を上げるのもありか。

これらに加えて「ラノベ文体」という要素もあるが、煩雑になるので今回は割愛。


…で、この小説の場合、色々な意味で「薄い」です。

イベント内容が薄い。舞台である建造物自体に魅力を感じない。何かヤバい計画の実験場らしいのだが、それがボンヤリし過ぎていて強い興味を持てない。緊張感が持続しない。

キャラも薄い。オドオドした未熟な若い女性の成長ドラマをやりたいんだろうな、というのは分かるが、ヒロインが没個性すぎて特に魅力も感じない。
サブキャラにも大した思い入れが持てず、裏切られようが何しようが別にどうでもいいや、というレベル。しかも、展開上仕方ないのかもしれないが、キャラの出し入れタイミングのせいでサブキャラ同士の有機的関係が構築されないので、尚更サブキャラの運命に興味を持続できない。


この物語の「暫定ラスボス」的位置にいる人物。倫理観やらなにやら色々と踏み外しまくった人なんですが、化けの皮が剥がれて以降は卑小でつまらない人間としてしか描かれない。

まー、健全な倫理観からすれば正しい描写ですが…。「厨2病文学」でもあるジャパニーズラノベにおいては、こういう人は「市民社会の敵であり、振り回す理屈も身勝手かつ危険極まりない。…が、読者の心のどこかをくすぐる妙な魅力がある」ように造形されるよなぁと。

そこらへんは前回書いた通りに「light novel」の定義自体が違うんだからしゃあないというか、「厨じゃなきゃ駄目」とカテゴリーエラー扱いするのは流石に乱暴すぎるよなぁとは思うのですが。


でもなー。どうせ日本語版が翻訳出版される事はないだろうからオチを割って説明しちゃいますが、この話って、主人公以外の登場人物は全員役割を演じているだけ、彼等は素の人格ではなく「キャラ」としてふるまっているんですよ。

そういう設定なら、現実離れして魅力的なあざといくらい立ちまくったキャラをガンガン出してもいいのに。「キャラクター小説」である事を要求されるジャパニーズラノベなら、必ずその方向を強化するはず。


ジャパニーズラノベで同じ題材を描いた場合どうなるか。

前半部分で派手なこけおどしイベントを連打。
全力で「表の」キャラ立てをあざとく行いつつ、アクシデント時に彼等の「素の」キャラを覗かせる。

オリジナル版の大オチにあたる部分は中盤で明かす。
各キャラがこの状況に協力した背景を説明、「素の」方のキャラ立て。
状況認識と人間関係が劇的に転換。

館で行われている実験内容も、外の社会との関係性もきっちり説明。主人公が被験者に選ばれた理由もきっちり明かす。
その上で主人公に「選択」を行わせる。

…かなぁ。

付記)ガラにもなく遠慮してしまったが、『館もの』『箱庭もの』というのは日本の(男性向け)エロゲでよくある設定でもある。限られた空間と時間内での濃密な人間関係や極限状態の心理が描きやすい為だろう。オチでガッカリさせられるものは多いが、途中まではそこそこ楽しめるジャンルではある。

館探索アドベンチャーゲーム風の状況設定、という大枠はラノベっぽい(=オタク文化との親和性が高い)が、それを除けば「厨2センス」も「キャラ萌え」も「邪道にポップな文章表現」もない、ピーキーなところが全然ない「バランスの整った、まともで普通な小説」で、えーと、どこらへんがラノベ…?という感じなんですが。困ったなぁ。

いや、まぁ、日本における現行のラノベトレンドとずれているから駄目、って事でもないんですが。てか、私個人がラノベに求めるものが偏り過ぎなのかも(そもそも女性向けラノベレーベル作品って読んだことなかったわ)。


長くなり過ぎたので、「月刊ウェブマガジン連載作品」「マルチメディア商材」 としての考察、「イラストをつける意義」「創作講座上がりの平易で標準的文章表現の問題」については別作品の批評内で。