蜘蛛之巣城

『Tokyo Demons ~東京悪魔~』で「キャラ立て」を考える

「キャラクターCD」が制作されるほどの人気脇役・森川ミキ。

彼がどういうキャラかというと、
実年齢は17歳なのに、ぱっと見は12~13歳の美少年。身長は150cm台で声はボーイソプラノ(声優さんは女性)。
しかし中身はガチ不良。しかも、ジャンプ系ツッパリヤンキーではなく、チャンピオンヤンマガ系のストリートギャング。


ここまででもかなりキャッチーですが、これはあくまでキャラに興味を抱かせるとっかかりに過ぎません。


ミキくんが物語に初登場するのは第3章の最後、主人公ジョーをギャングチームに勧誘する為に呼び出す場面。

この場面でミキくんがギャングチームの現状を説明するセリフによって、

  • ミキくんが非常に合理的な思考をする人物であり、一般的な道徳心はないが不良としての独自のポリシーは堅持していること
  • 本来のリーダーであるタケシがアタマを張っていた時代に誇りをもっており、2年前にタケシが雲隠れしてから「ヌルたくなった」チームの現状に強い不満を感じていること
  • 現在の暫定リーダーであるバン(タケシの実弟)を完全な役立たずとみなしており、チームの実働部隊を掌握しているのはミキくんであること

…を、読者は理解する訳です。

基本的な価値観と行動原理、知性の程度、不本意な現状、にもかかわらずそれを甘受している不自然さ。
彼のパーソナリティーと立場が明確に説明され、そこから近未来に展開されるであろうドラマの予感という運動エネルギーが感得される訳ですよ。


更にその後なんだかんだあった末、タケシの行方を追っている謎の武装集団とやりあい、挙句に片目を潰されたにもかかわらず、悪態はつけど泣き言は一切口にしないミキくんの姿に読者は「揺るぎない不良魂、パネェ」と震撼。


物語の登場人物ってのは、不思議なもんです。

ミキくんは好き好んで自分から反社会的なグループに所属し、暴力犯罪に手を染め、その結果自分も痛い目にあってるだけなんですよ。
それに対してジョーは同情すべき不幸な生い立ちやらなんやらがあり、望んでもいないのに暴力沙汰に巻き込まれ、結果的に他人を救っている。

これが現実の人間だったら後者の方に好感を抱くのが自然。なのに物語を読んでいる私が感情移入しているのは圧倒的に前者。

設定は盛られているけどキャラはブレブレ(少なくともこの時点ではそうとしか見えない)な主人公が良くわからない心の動きの末に行った人助けよりも、キャラを貫いた不良がふるう無法な暴力の方が「わかるわー」なのですよ。


そしてミキくん単体でこれだけキャラ立てに成功している処に、1巻終盤で噂の男・タケシが帰ってくる。

二人の再会シーンをちょっと訳してみませう。

 「…タケシ?」ミキは小声で呼びかけた。

 男はサングラスをずらして顔を見せた。「よぉ、カワイコちゃん」

 ジョーは部屋の角から言葉もなく見守っていた。ミキは一瞬、驚いた顔で自分よりはるかに長身の男を凝視したが、次の瞬間、思い切り助走をつけるとタケシの鳩尾に無傷な方の拳を叩き込んだ。タケシはその場で両膝から崩れ落ち、げほげほと咳き込みながらも笑い出した。

 「このデコスケ」その笑いを制したミキの声は、ささやくように小さいが険悪極まりない。「オレらが皆殺しにされる前に、ここから出て失せやがれ」

 タケシは弱々しくミキの片脚をつかんだ。「バンのツラを見にきたんだよ」哀れっぽい調子でそう言うと、更に付け加えた。「奴にゃ、この兄ちゃんがついててやんねぇと」

ツ…ツンデレ?ストロングスタイル・ツンデレなの?

既に充分キャラの立っているミキくんとのからみで新たに登場したタケシのキャラ立てを行い、読者の興味が持続している間に追加描写でタケシのパーソナリティーと現在置かれている状況を説明、そこで物語の大きな展開にかかわる情報が開示される。

別のキャラとの会話でタケシはどうしようもないボンクラだが不良なりの「筋」は通す男であり、舎弟たちを護る為なら自分が一人でリスクをしょいこむことをいとわない根っからの兄貴気質であることがわかる。

ミキくんはコイツの留守を預かって忍びがたきを忍びチームを維持してきたのか…で、これからどうなるの?と、嵐の予感に読者は興味津々。
(キャラクターCD用の人気投票が行われたのはこのあたりのタイミング)


更に2巻の初めにタケシ、ミキ、バンと不良グループの女性組リーダーであるミツコが一同に会する場面があるのだが、そこでのやりとりによる関係性描写によって、1巻段階では紋切り型の描写しかされていなかったバンとミツコがそれぞれ「愛嬌のあるデコスケ」「一本筋の通ったガチビッチ」として魅力的なキャラに化ける。
そんな二人に慕われているタケシの格も同時に上がる。

そしてタケシ個人に対して愛情を持ちつつも、タケシが仕切っていた昔日のチームを愛し、当の本人であるタケシがそれを変えようとしている事に忸怩たる思いを抱くミキを描写し、この先の不穏な展開を予感させる。


もーう、この段階になると、この4人の会話は英語で読んでいても頭の中で自動的に日本語のセリフに変換されて、各キャラの声や口調、しゃべりの間、身振りや表情が生き生きと浮かんできます。

(一般社会のモラルから逸脱していようと)明確な価値観と主体性を持ち、表層はゆれても本質はブレないキャラが、あくまでその人らしい行動をし、あるいは大切な何かの為に己を殺して忍耐し、我慢の限界に達して怒りを爆発させる。
そんなキャラ同士が絡み合う事で互いの個性が更に際立ち、ドラマが加速する。


それに比べて主人公たち異能チームときたら……orz

設定上のフックはてんこ盛りなのにねぇ…。
例のフェロモンのせいでキャラ単体の描写にもキャラ同士の関係性にもノイズが入りまくりで、感情移入が著しく阻害されるし。
そもそも主人公チーム5名のうち、主体的に行動してるのってサチくんだけだし。しかもその行動はことごとく空回っちゃってるし。

まぁ、第2巻目のラスト近くで、主人公2人は「先に待ち構えるリスクを承知の上で、やるかやらないかで『やる』方の道を選ぶ」という決意をするに至り、私もようやく(本当にようやく)彼らに好意を持てるようになったのですが。
…それまでが幾らなんでも長すぎるよ!


海外作家による作品だからこその興味深い部分(カソリックやムスリムのような明確な宗教基盤文化圏の面々と、いわゆる日本型信仰の持ち主である主人公ジョーとの意識の違い。アヤセの発情を通じて描かれる「ロマンティック・ラブ」とは別の「少女の性欲」の問題とか)もあるんだけどねぇ。いろいろと勿体無い。