蜘蛛之巣城

『Tokyo Demons ~東京悪魔~』で生存戦略、しましょうか!

学園異能バトルもの海外ラノベ『Tokyo Demons ~東京悪魔~』のレビューに入る前に、江戸時代後期の戯作者・二世為永春水こと染崎延房(1818年 - 1886年)先生のお言葉を紹介しておきましょう。

近き属の画双紙は、或いは何の妖術とか、奇々怪々の条を設けて、画組に工を尽くさねば、婦幼稚童の御意にかなはず。

(現代語訳:最近のラノベは、派手な能力お披露目とか、目新しいファンタジーバトル展開とか入れて、挿絵栄えするように工夫しないと、リア小中読者や女性ファンのウケが悪いんですよねぇw)

北雪美談時代加々見 4編(1856年刊)序文より

そんな『北雪美談時代加々見』がどういうお話かというと、

  • 主人公は超美形のダークヒーロー。事情があって、十代の頃は女の子として育てられたよ!
  • 怪我した殿様を助けたのがきっかけで、美少女と誤解された主人公は殿様から惚れられちゃうよ!
  • でも、素性の知れない孤児だと思っていた彼は、実は稀代の悪女・岩藤の孫だったんだ!
  • 祖母の怨霊にとりつかれ、恩ある殿様とその忠臣たちに復讐しなければならない運命に!
  • 岩藤の魂は蝶に化身して常に主人公を守り、様々な超常パワーを与えるんだ!
  • 剣技が自慢の女盗賊に惚れられた挙句さらわれて、蝶をあやつる妖術vs.剣術のバトルになったりするよ!

工夫の甲斐あってヒットして、長期シリーズになったらしいよ!がんばったね、春水先生!(詳しくは佐藤至子著『妖術使いの物語(国書刊行会)』を読もうね!…ちなみに最初の方は師匠の初代春水が書いてるので師匠の手柄ですが)


…我が国のエンタメときたら、昔っからこんなのばっかですよ。
てか、誰か今すぐ漫画化しろ。


さて、リアン・センター作、イラスト担当remの『Tokyo Demons ~東京悪魔~』
内容の紹介に入る前に、作品の背景説明をしておきましょう。

作者のリアンさんは元々はネットでセーラームーンのファンフィクを書いていて、1999年、17歳の時にTokyopopの前身であるMixxにスカウトされてセーラームーンのノベライズを執筆したのがプロ作家としてのキャリアの始まり。

以後、Tokyopopで日本漫画の「英語アダプテーション」を手がける事になります。アダプテーションというのは、翻訳者から送られてきた下訳をもとに最終的な英語テキストを作成する仕事ですね。
『スレイヤーズ!(5~6巻)』と『スクラップドプリンセス(1~4巻)』の原作小説の編集及びアダプテーションも担当しています。

十代の頃からオタク文化どっぷりで、ラノベ慣れしており、出版業界にも詳しい人な訳です。ちなみに民族的には地中海系でムスリムだそうです(Tokyo Demonsにもイスラム教徒のキャラがレギュラーで登場しています)。


2011年2月のTOKYOPOP編集スタッフ大量レイオフで漫画関連の仕事に関してはほぼ失業状態になったリアンさんですが、この時点で既に抱えていたオリジナルラノベ企画『Tokyo Demons』を、既存の出版社に持ち込むのではなく自分と仲間達でネット発マルチメディア作品としてビジネス化する道を選択。

更に、同じくTPを解雇された名物編集者のリリアン・ディアス-プルツィビルさんと「富士見等、ラノベを中心としたキャラクタービジネスを展開している日本の出版社のビジネスモデル」に倣ったインディ出版社を立ち上げる構想を検討。

そしてTOKYOPOPが北米における出版事業部門を閉鎖した2011年5月31日付でポータルサイトのwww.tokyodemons.com を公開します。
わざわざTPの終了と入れ違いのようにスタートさせたのは、もともとはTP向けの企画だったのか、あるいは「TPがやるべきだった事、TPに在籍中にやろうとしてできなかった事をこのサイトでやるぞ!」という決意表明なのか。

この頃オタク系海外サイトを回っていると頻繁にTokyo Demonsのグーグルアドが表示されて、私もそれで企画の存在だけは認知していました。
タイトルの宣伝の為にかなり広告費をかけていた事がうかがわれ、単に道楽でボンヤリやっているのではなく、初めから「ビジネスとして大きく育てる」強固な意志がアピールされていた訳です。


完全無料公開で1年近く小説とオーディオドラマのネット連載が続き、第1巻分の終盤に入る頃、「第2巻分の制作費用」のファンディングがKickstarterで行われ、投資者報酬として第1巻分を紙単行本化。この時点までの各種運営資金は完全にスタッフの持ち出し。よく頑張ったものです。

2013年2月に新会社Chromatic Pressの立ち上げがアナウンスされ、Tokyo Demonsも新創刊のウェブ雑誌Sparkler Monthlyの連載コンテンツに移行。先日第二巻分が連載終了し単行本化作業に入っています。


ジャンル的には現代日本を舞台にした「学園異能もの」であり、キャラクタービジネスに利用しやすい作品。

中心となる「light novel」から、オーディオドラマと「キャラクターCD(ストーリー性がない、キャラの一人語りでリスナーと会話している体のアレですアレ)」が既に作成されています。ビジュアルノベル形式のゲームとMTG型カードゲームも鋭意製作中。いずれは漫画版も出るでしょう。

詳しい内容解説は次回にやりますが、前回とりあげた『Gauntlet』とは対照的に、色々な意味で「ああ、こりゃ確かに『ラノベ』だわ」という仕上がり。

目に見える欠点もあるが、色々な可能性もある。

ちなみに私はレギュラーキャラの一人に結構なキャラ萌えを起こしているので、「キャラクター小説」としては確実に成功しているといって良いでしょう。
……奴の追加エピソードの為なら課金してもいいんだぜ?(さて、私が萌えているキャラは誰でしょう。答えは次回)