蜘蛛之巣城

Inkblazers終了に伴う翻訳版タイトルの今後について (2015-2-6初稿記事を全面改稿)

さらば、Inkblazers

英語を第一言語としたタイのウェブコミック・ホスティングサイトInkblazersがをもってサービス終了しました。

2011年の初めにMangaMagagine.netの名称でスタートしたこのサイトは、スタート時の名前が示すように「manga世代のウェブコミック作家が集い、作品発表とファンベースの形成、マネタイズを行う」事を目指していました。

SNS時代に対応した洗練された開放的な構造と、(DA等の既存サービスのギスギスした雰囲気とは違う)フレンドリーなコミュニティ形成によって、若い描き手が参加しやすい雰囲気作りに成功し、非常ににぎわったサイトでした……が。

マネタイズの方法として、広告収入という道はとらずに有料会員からの会費と物理書籍やグッズの売り上げという、「mangaはウェブでフリーで読むのが当たり前」という違法スキャンレーション世代を相手にするにはストイック過ぎる手法を選択したために経営不振で投資家から手を引かれ、急転直下の店じまいという結果に終わりました。

Inkblazersの多言語漫画

Inkblazersの優れていた特徴として、「作品の多言語化のしやすさ」というのがありました。

作品の翻訳版作成用に原著者が文字抜きの「blanks」原稿をアップロードし、有志が翻訳版を提出、原著者はチェック承認後に設定されている言語(タガログ語やポーランド語などまである)のセクションにアップするという手順。

人気上位作品の多くは多言語版が公開され、私も気に入った作品の日本語化に積極的に協力したのですが…。
Inkblazersのサービス終了と共に、私のものも含めて有志達の作成した翻訳原稿の大部分はネットの藻屑と消える事となりました。

既に原稿は完成しているのだから別の場所にアップロードすればいいじゃないのと思うのですが、大半の作家にとっては「英語版以外の公開は手間のわりに効果が薄い」「何を考えているのかわからないマイナー言語圏の外国人読者よりも、目に見える肯定的な反応がダイレクトに返ってくるPatreonの投資者の方が大事」という感覚のようです。

「mangaスタイルの作品を描いている作家なら、自作の日本市場への進出にも当然興味があるだろう」というのは大きな勘違いで、彼らにとってmangaスタイルの絵やウェブコミックを描いたりというのは、自分の言語圏で同じ趣味仲間とコミュニケーションを取る為の手段に過ぎないという事なんでしょう。
(無料のスキャンレーションに慣れているので、翻訳者の技術や手間を軽視する姿勢もあるかも)

そういえば、私が翻訳原稿を提供した作家さん達、受け取った原稿をアップロードするだけで、日本語版がありますよという「日本人向けの」告知や宣伝は一切やらず、facebookで自国の友達に「ほらほら、私の漫画の日本語版をつくってくれた人がいるのよ」と自慢するだけなのが当時不思議でしたが、今になって振り返るとあの反応も色々と腑に落ちます。

奇妙な事に日本人読者の方もtwitter等で私の翻訳担当作品を話題にする際には、固有名詞を出すのを避けたり、フォロワーからURLを尋ねられた際にはリンクを直接張らずにDMで教えあったりという不思議な行動をとるんですよね…何なんだろう…自分自身も創作をやっているのだから「作者の目に見える形で反応を届ける」事の大切さは理解している筈だろうに。

そして、後始末

そんな訳で、私が翻訳原稿を作成した作品は以下の通り。
(今はじめてキチンと数えたけど、750ページ強もある…ヒィィ。なんつー技術と時間の無駄遣い…orz)

Jen Lee Quick作 "Witch's Quarry"(本編第1章~第10章+番外編 計318ページ)

Jen Lee Quick作 "The Normal One" (全25ページ)
Jen Lee Quick作 "Threads" (全27ページ)
Jen Lee Quick作 "Hungry" (全28ページ)
以上、全ページ消失。日本語版再公開の見込みはゼロ。
原著作者が翻訳版に無関心な上、インディの商業出版社であるChromatic Press社がタイトルを引き受けてビジネス展開しているので、私個人にはもうどうにもできません。



Natalie Wormsbecher作 "Schwarzer Kater"(本編第1章~第2章 計20ページ)

black cat

全ページ消失。日本語版再公開の見込みはゼロ。

参照外部サイト: Natalie Wormsbecher公式サイト

追記:Natalie Wormsbecherは2015年に、編集者として務めていたTokyopop.deを退社し、フリーランスで働きながらドイツ文学とメディア科学を学び直している。
完全に筆を折った訳ではないが、当分の間は漫画制作やコンベンション参加等の優先順位は後回しになるらしい。



Sinlaire(Mukhlis Nur)作 "Only Human"(本編第1章~第4章 計318ページ)

第1話約20ページ分はPixivでも公開。他は消失、日本語版再公開の見込みゼロ。

第2章以降の日本語版再公開を希望する人は、先方さんのSNS等で直接リクエストしてください。
(公開中の第1章には擬音の翻訳ミスが一箇所あるので直したいんだけど…溜息)

オリジナル版(インドネシア語)は作者のfacebookで公開中。

参照外部サイト: facebookのONLYHUMANページ

英語版は韓国企業運営の英語ウェブコミック・ホスティングサイトtapasticで公開(第三部の中途で長期休止)。

参照外部サイト: tapasticの"Only Human"ページ


Nyesis(Elisa L. Cross & Sara Fabrizi)作 "RACERS"(本編第1章 31ページ)

翻訳分の第1章 31ページ分はPixivで公開。

追記:2017年9月末に確認した所、NyesisはPixivから全作品削除、英語版の漫画は全て韓国系企業運営のウェブコミック・ホスティングサイトのTapas(旧 tapastic)及びWebToonに移動。



(↑以上↑が、改稿分。
↓以下の二作↓の紹介記事はそれぞれ別稿で書きましたが、一応、2015-2-6初稿分+追記も残しておきます。



不憫な作品たち

ついでに、サイト閉鎖間際に「プレミアム(アクセス数に応じて報酬が支払われる)」クラスに昇進した2作品をご紹介しておきます。

(サイト閉鎖のアナウンスはDec 18, 2014 11:03 PMにサイトのスタッフブログで突然行われました。有料会員にすら事前にメール連絡等もなかったのですよ)


チリのFlipfloppery(Koti Saavedra)作 "Awaken" (11月にプレミアム昇進)

↑のリンク先は移転先のhttp://www.thehiveworks.com/。

ご覧の通り画力は抜群。

ウェブコミックとしてはストーリー展開がいささかノロく、基本設定を把握しにくい構成で私個人は評価保留していたのですが。


"Awaken" by Flipfloppery

↑はIBが作成した宣伝用動画。
作者さんはプレミアム昇進を期に、漫画の執筆活動に注力する為仕事をひとつ辞めたとかで…き、気の毒過ぎる……。

追記:その後hiveworksで公開、kickstarterで紙単行本化の資金を募る事に。


※メキシコのHeldrad作 "Orange Junk" (12月にプレミアム昇進)

↑のリンク先はsparklermonthlyのアーカイブ。

親の事業失敗で富豪令嬢から一気に平民堕ちしたヒロインが、ガラの悪い公立高校に転校して様々な人間関係にもまれてゆくコメディ。

マンガ文法の未熟さやセリフの詰め込みすぎで画面がゴチャゴチャして少々読みづらいのが難だが、キャラは生き生きして魅力がある。


"Orange Junk" by heldrad

↑IBの宣伝用動画。
12月頭にプレミアム昇進して、12月18日に「2月1日でサイト閉鎖するからヨロシク!」と電撃告知という理不尽な目に。

追記:その後、インディ出版社Chromatic Pressがサポートする事に決定。
ヒネった作品が多いChromatic PressのSparklermonthly掲載作の中では貴重な「王道少女マンガ」タイトルであり、作者の筆が早いのも雑誌連載作品としては大きな強み。


余りにも急なサービス停止にふりまわされて会員は一様に怒ったり嘆いたりパニクったりでしたが、気の毒度ではこのお二人が群を抜いているので応援してあげてください…。