蜘蛛之巣城

日本ネタの海外ウェブmangaをめぐる不毛な議論

魔法少年ブレックファストクラブ

Mahou Shounen Breakfast Club

ここ数日私のツイッタータイムラインを絨毯爆撃のごとく埋め尽くしているのが、「日本を舞台に日本人を主人公にした非日本人作家によるボーイズラブwebコミック"Mahou Shounen Breakfast Club"嫌がらせコメントに屈して電撃打ち切り事件」。

ざっと経緯を説明すると、
今年の2月5日にKatie O’Neill(ニュージーランド人)とToril Orlesky(アメリカ人)によるウェブコミック"Mahou Shounen Breakfast Club"が公開開始。

この作品、公開前からSNSで設定のチラ見せをし、公開開始のカウントダウン的な記事を出したりと盛り上げて、作者二人はやる気満々。初回からpatreonで資金集めもしてた。

が、公開準備段階の2月2日に作者の片割れのtumblrに「名無しさん」から「白人のくせに安易に日本ネタで漫画描くなや。そういう事はまともな漢字が書けるようになってからにしろ(大意)」というような攻撃コメント(正確に言うと匿名askによる難癖)がついた。

このコメントは日本語交じりで書かれていたが、言葉遣いが微妙に変なのでネイティブ・ジャパニーズ・スピーカーによるものじゃないのは確実。ま、釣りコメントですな。

この釣りコメに作者がどういう返答をしたかというと「私は日本語の学士号を持ってるのよ!」

こんな荒らしコメなんて歯牙にもかけてないわ~という余裕アピールなんでしょうが。あんまり上手い対処じゃない。

しかもこの作者、ツイッターでこの一件を踏まえた上で「最近ネットで蔓延してるcall out風潮(SNSで吊るし上げを仕掛ける?みたいな意味らしい)」に対する批判というか愚痴をズラズラと開陳しちゃった。

付記)urbandictionaryでのcall out定義。一般的な意味では「問題点を指摘する」くらいなのだが、昨今のネットにおける風潮から見るに「一対一の争いではなく第三者を巻き込んだ炎上狙いの挑発とか告発」みたいなニュアンス??
tumblrでその後色々な事例を見てきた処、call outという言葉は限定的には「ポリコレによる差別思想指摘(とゆーか、指差しレッテル張り)」みたいな文脈で使われるケースが多いみたい。

案の定、(漫画自体の内容ではなく)この上から目線返答に不快感を持った人々がツイッターで作者に論争を仕掛けて長々としたやりとりになる(3月初め頃)。

そして3月3日、この漫画の打ち切り宣言が出されたと。

問題は、漫画の内容じゃない

この一件はギーク向けサイトのbleedingcool.comにとりあげられ、そのせいで英語圏のmangaクラスタ内で大きな論争になってしまった。

外野達の論点は
「荒らしにちょっと突かれたくらいで漫画を打ち切るなんて」
「非日本人が日本を題材にした創作をして何が悪いの?」
から、十年一日のごとき
「mangaスタイルの創作者が被る様々な理不尽」
とかなんですが…上記の経緯を見れば分かるように、この騒動の実際の要点ってそういうトコじゃない。

この件で問題だったのは、webという公開の場における作者達の立ち居振る舞い。

たとえ相手が明らかな釣り目的の荒らしだったとしても、不特定多数の見ている場所で無駄に虚勢を張って煽り返すような態度をとると、思わぬ処に飛び火して大火事になるケースもあるよ…というネットではよくある話。mangaや日本文化は本質的な部分とは無関係。

この件に端を発した論争は既にこういう実情を離れて拡大しちゃってるけど、発端はそういう事です。

あえて言おう、「ググレカス」と

そんな訳で、打ち切り騒動と問題の漫画自体の内容には直接的な関係はないのですが、"Mahou Shounen Breakfast Club"を実際に読んだ一人の日本人として色々と言いたい事はあるのですよ。

参考外部サイト:Mahou Shounen Breakfast Club (追記:既に公開終了。"Mahou Shounen Breakfast Club"で画像検索するとほぼ全ページどこかしらで見られますが。)

上記連載サイトのCastページを見れば分かるように、このウェブコミックの主人公は新人声優で他の主要登場人物もほとんどが声優やアニメ業界人。

導入部は彼が吹き込んでいる作中作の新作アニメの内容→その収録風景で構成されています。
…が。

e1-act-1
Mahou Shounen Breakfast Club Episode 1, Act 1より

この「アニメのアテレコ場面」、どー思います?

「一人で」「着席して」「台本に目を落としたまま」「(この構図では前方にスクリーンがあるのかすら不明だが)フィルムも白身も見ずに」「ポップガードのついてないマイクで」本番収録って。
プレスコだとしてもおかしい。ゲームの音声や長尺もののナレーションなら単独で着席収録もありでしょうが…。

日本のアニメのアテレコ風景なんてyoutubeに腐るほどあがってますよ?
声優が主人公の物語なのだから、今後も収録スタジオは重要な舞台として度々登場するであろうに、その考証資料(ググればすぐ出てくるレベル)を一切集めずに作画してドヤ顔するような人間に敬意を持つのは難しいですわ。

これが純粋に自分の楽しみの為だけに書いている10代の若い子の作品ならともかく、 「準備期間一年」「自分は日本語に堪能」と豪語し第一回からpatreonで制作資金を募っていながらこのレベルかよと。(連載前から早手回しに通販サイトのstorenvy.comアカウントも押さえてたし)

こういう創作姿勢がこの作家のデフォルトなら、どんな時代どんな社会を題材にしたものでも同じようなレベルのシロモノしか出来上がってこないだろうなと思う。

白人・非白人、mangaとcomicなんてレベルの話ではなく、それ以前の「自分の作品をより説得力のあるものにしようというクリエイターとしての基本的かつ健全な欲求の欠落」が問題。

偉大なる「日本文化かぶれ」の先人達よ

SHI Shi: The Illustrated Warrior
(April 2002)

例えばフランク・ミラーの80年代の日本ネタ作品群や90年代のウィリアム・ツッチーの『SHI』シリーズなんて、日本人の目から見たら考証間違いだらけのトンデモニッポンだけど、少しも腹は立たない。

一枚の原稿に注ぎ込まれた多量の情熱と労力と執念が「見える」もの。

沢山の参考書籍を買い込み、不鮮明なビデオテープを何度も何度も一時停止しながら、同時期のアーティストの誰も描いた事のないフレッシュな画面を作り出そうと最大限の努力をした痕跡が見えるんだもの。

それに比べて件のウェブコミックの作者達ときたら。
ググれば大概の画像資料がタダで手に入る時代だというのに、それすらしない。

正しけりゃいいってもんじゃないだろ

"Mahou Shounen Breakfast Club"打ち切り宣言の際のアナウンスでは、

From the outset we tried to be aware of issues such as cultural appropriation, fetishization and stereotyping and did our best to avoid them and write in a nuanced manner.

…という言い訳がされているんですが、この一文は翻訳がめんどうだな…。

cultural appropriation(文化の掠め取り):白人が非白人の文化を単なるファッションとして、その民族にとっての本来の意味を無視して無頓着に食い散らかす事。

fetishization(フェチ対象化):分かりやすい例をあげると、アフリカ系男性をセックスモンスター的に扱ったり、日本女性を十把ひとからげに従順でエロいゲイシャガール扱いしたりするような事。

stereotyping(類型化):これは説明はいらんでしょ。ステレオタイプな描き方。

「私達は初めからcultural appropriationやfetishizationやstereotypingに対して意識的であるように努め、そのような描写を避けて豊かなニュアンスを持たせた描き方をする為に最善を尽くしました。」

なんつーか、ポリティカルコレクトネス関連でヘタうった時に出す声明文の典型みたいな、完全に守りに入った紋切り型の表現ですな。全然「自分の言葉」で語ってない感じ。

こういう定型文に一々ツッコミを入れるのもなんだけど、「フェティシズム」って表現者にとっては重要な原動力のひとつよ?
この作家コンビの場合、むしろフェチ心の欠落がいい加減な創作姿勢につながってるような気がするんだけど?

2015-5-6 追記

ここで蒸し返すのも死体蹴りのようでナンなんですが。"Mahou Shounen Breakfast Club"の作者さん、フォロワーに「このプロジェクトはキャンセルするが、将来AU(Alternate Universe)で描くかも」とかアナウンスしてるんですよね。

あ~やっぱり「日本の声優業界」という舞台設定は物語に不可欠のものじゃなかったのね。別の舞台でも成り立つような話だったのねと。

いや、「舞台設定はどこでも成り立つようなドラマだけど、○○の風俗を取り入れたらフレッシュな味わいを加味できるから○○を舞台に選ぶ」でも一向にかまわないんですけど。
でもネットショップやpatreonのアカウントは準備して集金プランはばっちり立ててるのに、準備期間一年の間にアニメの音声収録スタジオに関する資料を集める為には指一本動かさないってのは流石に…。

炎上騒ぎであっさり企画を没にしたのは、作者側も「日本を舞台にする事に作劇上の必然性もなけりゃ内的な必然性もない」と自覚してしまい、一気にモチベが落ちたからでは。

ま、次にまた同じコンビで作品を制作してビジネス化するつもりなら、自分自身で興味が持てて、資料を渉猟する過程自体を楽しめるような題材を選んだ方が良いですよ、としか。でなきゃ長丁場の連載は続かないですよと。