蜘蛛之巣城

Mahou Josei Chimakaと英語圏産魔法少女バトルmanga

Home grown Magical Girls

Mahou Josei Chimaka
Mahou Josei Chimaka
by KAIJU

4月の半ばあたりにツイッター上で英語圏のmangaクラスタが「Home grown Magical Girls(国産=英語圏産の魔法少女もの)コミック」についてディスカッションしていたのですが、確かに海外のウェブコミックでは日本の「魔法少女バトル」ジャンルを踏襲した作品をちょくちょく見かけます。

商業作品でも、フレンチ少女manga"Pink Diary"をヒットさせたJenny先生が"Sara et les contes perdus(サラと失われた物語)"というセラムン系魔法少女ものmangaを手がけていたり。


東映魔女っ娘アニメの源流がハリウッド映画『奥様は魔女 I Married a Witch』やアメリカンホームドラマ『奥さまは魔女 Bewitched』なので、アニメ版『美少女戦士セーラームーン』が契機となった90年代海外ショージョマンガ・ムーブメントを原体験とした今のmanga系作家が「魔法少女もの」を描くのは、半世紀がかりで故郷に回遊したようなものですな。


ツイッターであげられていた作品群には後で触れるとして、以前中篇"The Ring of Saturn"のレビューを書いた作家コンビKAIJUの新作"Mahou Josei Chimaka(魔法女性チマカ)"が丁度先月刊行のSparkler Monthly誌21号で完結したので、紹介をしましょう。

当サイト内の関連記事:OEL-manga 2013 2014-8-21

Mahou Josei Chimaka (by KAIJU)

主人公は冴えないワーキングウーマンのチマカ。
彼女は十代の頃には「きらめき☆スカイパッチャー チマカ」という魔法少女として地球を脅かす闇の勢力と戦っていたが、ラストバトルでヘマをやらかして引退。

魔法少女活動の為に学業をおろそかにしていたせいで一流大学にも入れず、どうにか石油会社の研究開発課に就職できたものの現在はぱっとしない日々を送っていた。

学歴なし、キャリアなし、恋人なし。人生に失望し変身する力も失くしたチマカだが、15年前に辛うじて退けた脅威が復活して……というお話。

魔法少女としての正式名はShimmer Shimmer Sky Patcher Chimaka
お供のマスコット動物は翼ある蛇のスネーキィ

ドラマの基本は「思春期の理想と社会人になってからの現実のギャップで腐っていた主人公の再生物語」であり、男女問わず大人ならば誰しも共感できるテーマ。

これに「魔法少女バトルもの」フォーマットを導入するにあたって、
「なぜ少女が世界を脅かす巨大な敵と戦うのか」「なぜ彼女だけが世界を救えるのか」
をきっちり考えた上で主人公の正体を設定し、スケールの大きい「女性賛歌」に仕上げている。

Fifteen years ago…I was young, starry-eyed…I expected the world to look after me. I thought if I did my best, everything would fall into place.
(15年前…あたしは若くて夢見がちで…きっと世界はあたしに優しいはずって期待してた。あたしがベストを尽くせば、なんでも解決するって考えてた。)

I believed that love…dreams…some invisible power would help me out. But not everything works out.
(愛とか…夢とか…何か見えない力があたしを助けてくれるって信じてた。でもすべてが上手くいくわけじゃなかったのよね。)

主人公チマカの魔法少女名が「Sky Patcher(天空の修復者)」である事や、お供のマスコット動物が蛇である事から、カンの良い読者にはチマカの「本体」が何なのか見当がついてしまうかもしれません。

チマカが東洋系ではなくアフリカ系の太目の女性なのは、人類の女系祖先であるミトコンドリア・イブがアフリカの女性だったからでしょうか?

古代の神々が力を失い妖精や妖怪に姿を変えたのと同じく、神格を落とされ現世に惑う偉大なる女神の仮の姿を「魔法少女」とした事で、「母なる神の力を内に秘めた女性」を賛美するフェミニズム的なメッセージへとすんなりつながっています。

キャラとテーマと設定と

The Ring of Saturn
The Ring of Saturn
by KAIJU

前作"The Ring of Saturn"では「ホルストの『惑星』に関する予備知識のない読者にはドラマの解釈が難しいのでは」という難点がありましたが、今回は「女媧にまつわる伝説を知っていればより理解が深まるが、知らなければ知らないなりに楽しめる作品」に仕上がっています。エンタメとしてはいいバランス。

「負け犬再起もの」という万人の共感を呼ぶ基本ラインに、ギーク女性向けウェブマガジンという媒体に合わせた「魔法少女」というモチーフ、「女性賛歌」というテーマを体現する主人公の設定
と、キャラクター・テーマ・設定・作劇が有機的に結びついた非常に「巧い」作品です。

TOKYOPOP時代のOELショージョmangaにはテーマ(主に反マチズモ)をエンタテインメントとして昇華できていないものが散見されましたが、流石に十年もたつとmangaによるストーリーテリングもこなれてきたようです。

当サイト内の関連記事:TOKYOPOPの海外少女manga 良作編 2009-5-13

海の向こうのMagical Girls

"Magical Girl"というのは一般的な英語ではなく、日本の漫画やアニメに登場する「魔法少女」を指す言葉です。

英語圏で魔法を使う女性を指す場合はwitch (魔女)が一般的。(例えばArchie Comicsの『かわいい魔女サブリナ』の原題はSabrina the Teenage Witch)。
ダークなイメージを回避する為にfemale magicianと書いて手品師との区別の為に (fantasy)と断りを入れる場合もありますが、これは大分説明的な表現。

よって、わざわざ作中なり作品解説なりで"Magical Girl"という用語を使用しているものは、絵柄がバタ臭くとも日本の魔法少女ジャンルの影響で創作された作品であるとアピールしている事になります。

以下に紹介するのは全て"Magical Girl"ジャンルである事を自認している作品からチョイスしたタイトルです。


How I Loathe Being a Magical Girl

今は亡きウェブコミック・ホスティングサービスInkblazersで見つけて以来フォローしている作品。
現在もsmackjeevesやDAで公開中。

16歳のモッサりしたオタク娘アメリアはフリフリのロングドレスにティアラ姿の「プリンセス・アメリア」に変身して魔法の巨大ハンマーで街の平和を脅かす怪獣と戦う役目を課せられている。

それだけでもウンザリなのに、ツインテールのセーラー服美少女戦士「マジックナイト・ネリー」が一方的にライバル宣言したあげく挑戦してきたり、Magical Girlハンターを称する黒衣の魔女「スチーム・ウィッチ・ヴィー」のロボ軍団に襲われたり…

作者のNomnomNami(Jessica Allen)さんは百合ものアドベンチャーゲームも制作&配布しています。


付記)初期に漫画やゲーム制作の相方を務めていたLOATHINGさんとのコンビ解消で、HILBMGを含む幾つかのタイトルは2016年に未完終了宣言が出された。nomnomnamiさん自身は個人作家として活動継続。

Battle Dog

tumblrで連載されている異世界ファンタジーコメディ。
ライター:Andrew Duff アーティスト:Matt Cummings

参考外部サイト:Battle Dog

ちんちくりん娘のウィラはスター・キングダムの王女さま。
スター・キングダムには聖剣Splendid Shining Shooting Star Swordが代々伝えられているのだが、この剣に秘められた魔力とは「使い手を(老若男女問わず)Magical Girlに変身させる」というものだった。

闇落ちしてネクロマンサーになった挙句に跡継ぎの座をウィラに押し付けて出奔した兄王子の後を追って、ウィラは忠犬バトルドッグを従え旅に出るのだが…というお話。

アメリカン・カートゥーン調と80年代anime調が融合した絵作りが楽しい作品。あと犬かわいい。

付記)2015年5月に作画者さんに商業仕事が入ったのを理由に休止。再開を待ってたんだけど、その後patreonで別企画を開始したりで、ちょっと再開は無理っぽい感じ。残念。

Agents of the Realm

現世と近接する異世界の平和を守る戦士に選ばれた五人の女性チームの活躍を描いた物語。
主人公チームは全員大学一年生、絵柄にもotaku系の色は全くないのだが、作者がMagical Girl themed storiesと明言している以上、魔法少女ジャンルでOK。
ヒラヒラした変身後コスチュームとガチ物騒な武器の組み合わせが凄いぞ。

参考外部サイト:Hiveworks "Agents of the Realm"

(作者のMildred Louisさんは、えっらい男前な外部太陽系セーラー戦士のファンアートを色々描いてます)

参考外部サイト:The Art of Mildred Louis

Sleepless Domain

今年の4月にスタートしたばかり。
ライター:Mary Cagle アーティスト: Oskar Vega

モンスターに囲まれた都市を守る五人の魔法少女Team Alchemicalのお話。
カワイイ系の絵柄、ファンシーあふれる美術設計、ピンクや水色の髪をしたカラフルなキャラクター、いかにもな性格付け…と、これまで紹介してきた作品群の中では一番ド直球な感じ?

参考外部サイト:Hiveworks "Sleepless Domain"

2015年12月18日追記:その後作画担当のOskar Vegaさんにフルタイムの仕事が入ってしまい、第3章からライターのMary Cagleさんが自ら作画をする事に。

Mary Cagleさんの画風の方があっさり目で好みなので、自分的には歓迎です。
↓のイラストは原型作品…なのかな?

2016-11-23 追記

この記事で紹介した作品のうち、

  • How I Loathe Being a Magical Girl(完全非商業個人作品) 作家コンビの解消により未完終了。
  • Battle Dog(完全非商業個人作品) 作家コンビの片方の都合で長期休止、恐らく続行は不可能?
  • Sleepless Domain(商業ウェブコミック) 作家コンビの作画担当が降板、原作担当が作画もこなして作品継続。 

コンビ作家で長い連載を続けるのは大変。自分独りで描くなら金にならなくとも腹を括って続けることはできるが、マネタイズできる宛てもないのにチームを維持するのは特に大変…という事か。

オマケ:このごろの画像引用事情

最近、manga系アーティストのDeviantArt離脱率が凄くて。アカウントが数年前の日付で放置されてたり削除されてたり、若い子に至ってはそもそもDAのアカウントを取得してなかったり。

そういえば、Inkblazersサービス終了宣告直後にユーザー達が移転先候補をディスカッションしていた際も、異口同音に「DA最低!あそこだけは駄目!!」とディスりまくってて…確かにコメ欄見ると交流厨と煽り屋が多い感じ。

代わりに流行っているのがtumblr(ほぼ必須的ポジション)、otaku度の高い人はそれに加えてPixivなんですが。
tumblrにもembed機能はあるけど微調整が利かないし、Pixivアカ持ってる人も日本の版権もの二次イラストしか置いてなかったりで、DA全盛時代のように気軽に画像引用してオリジナルコミックの紹介ができない…orz

DAのPC向けembed機能もFlash使ってるからアンドロイド系での閲覧を意識するとそのまま使えないし…面倒な時代になってしまったものよのう。トホホ