蜘蛛之巣城

今更帰ってきたTokyopopとウェブmanga投稿プラットフォーム

帰ってきちゃったTokyopop


後にインディやメジャーで作画担当して大出世したBecky CloonanのEast Coast Rising (パイレーツ・オブ・NY ~イケてる海賊野郎とデッカイお宝~)

7月初め頃、私のtwitterタイムライン上で英語圏のmangaクラスタが
「Tokyopopの悪行許すまじーッ!若者にあの惨禍を語りつごう!」
的に荒ぶりだしまして。

おいおい穏やかじゃねーな何があったんだ…と思ってたら、どうやら今年のコミコン他のイベントでTPが新人漫画家のポートフォリオ持ち込みを受け付けるというアナウンスに対する反応だったようで。

それがTPが今度開始予定のwebコミックホスティング&セルフ出版サービスの立ち上げ用コンテンツを物色する為だってんだから、そりゃ皆「どのツラさげて」って怒るわな。

これを期に、かつてのTokyopop "global manga"の顛末を振り返ってみましょうか。

Tokyopopの断末魔

Tokyopopという会社が北米における90年代後半から2000年代半ばのmanga、特にショージョmangaブームの立役者だった事は、まぁ皆様ご存知でせう。当時のブイブイ振りはホント凄かった。

それが見る影もなくなったのは、直接的には

  • 2008年7月の原油価格高騰による輸送費の上昇、同年9月15日のリーマンショックによる米経済悪化
  • 日本漫画の翻訳権の高騰。更に2009年の講談社を皮切りに日本のメジャーが現地出版社との提携を解消し、自社で直接翻訳出版を手がけはじめた
  • ATARIショック的な出版点数増加(他社も含む)によるmangaバブル崩壊
  • 主要取引先である書店チェーンBordersの経営悪化(2011年9月に全店舗営業停止)

なんですが、Tokyopop一社の事情に関して言えば、社主のスチュワート・リヴィがコミック出版に対する愛のないショウビズ・ワナビのヴァカだったから…だと思うけどね!

Tokyopopの "Global Manga"

後にDCでマダムザナドゥやバットウーマンを手がけるAmy Reeder HadleyのFool's Gold (だめんずの見分けかた ~完全無欠の恋愛指南~)

そんなTP社が手がけていた自社制作のオリジナルmanga。

前述のヴァカ社長の性格を鑑みるに、いずれ日本の一流作品の翻訳出版権を引き上げられてしまう時を見越したコンテンツ資産の蓄積…なんて深慮遠謀から出た企画ではなく、ヴァカ社長が映画や音楽業界に進出する為の弾を欲しがって…と解釈するのが正解っぽい気がします。

TPは2002年~2008年の間、Rising Stars of Mangaという新人コンペを開催。オタク系コンベンションでの持込受付や美術学校に出向いての新人発掘等の末、2005年から有望新人のmanga単行本刊行を開始。

作品のクオリティは玉石混淆でしたが、若い才気と将来性を感じられる作品も複数ありました…が。

TPの営業は特定の数作をのぞき、せっかく制作した自社グローバルmangaの宣伝を全くといって良いほど行わない。
優遇されたタイトルはゴスカワイイ系作品と音楽業界を舞台にした作品。漫画作品としてのクオリティよりも、映像化権の売りやすさや音楽配信ビジネスやキャラグッズ販売への利用しやすさが推しの基準でした。
ヴァカ社長は自社作品がコミック業界で権威ある賞の候補に挙げられても無関心。かと思えば、あてにならない映像化企画やゲーム化企画には狂騒する。

ヴァカ社長は「出版」にも「漫画作品」自体にも何の興味も愛着もなく、マルチメディアビジネスのネタ元としか思っていない…というのは当時の姿勢から既に明白。

当サイト内の関連記事:TOKYOPOPの海外少年青年manga 2011-7-10

著作権の折半と作品の塩漬け問題


Chromatic Press社から完結編第3巻が刊行されたJennifer Lee QuickのOff*beat (オフ★ビート -BOY・ミーツ・BOY-)

そして2008年の北米mangaバブル崩壊後はその姿勢にターボがかかり、多くの作品が続刊棚上げ、実質的には打ち切り。

掲載誌の休刊や出版社の倒産等で作品が打ち切られるのは本邦でも珍しくはないので未完自体に過剰な同情をする気はないのですが、TPの事例の場合更に面倒な権利上の問題が付随します。

多くの作品が「著作権の50%を出版社が持つ」という出版契約を交わしていた為に、TPで切られたから他社に持ち込むという道が閉ざされているのです。
(仮にTP社が完全に潰れても、TPが保持していた権利は債権者が獲得するはずであり、漫画家にとっては余計にややこしい事態になる)

権利を抱え込んだTPは「漫画出版なんて儲かる訳がない」と思っているから続刊を出すつもりは更々なく、しかし映像化権が売れて一発逆転できるかも?というスケベ心から権利を抱え込み、漫画家が作品権の買戻しを打診しても個人レベルでは躊躇するような金額を提示する。

その後、作品の権利を完全に買い戻して他社から完結編を出版できたのは、Chromatic Press社が資金を提供したジェン・リー・クイックのOff*Beatだけのはず。
(ブランドン・グラハムのKing Cityは単行本の出版権をTPに残し、カラー化したB5リーフ分割版を出版する権利をImageに許諾した…という事らしい)
James PerryのOrange CrowsとJoshua ElderのMail Order Ninjaは作家自身がkickstarterで資金を募って続刊を出版しているので、一応、抜け道はあるのですが。

漫画家達の呪詛の声をよそに、出版部門を畳んだヴァカ社長が何をやってたかというと、America's Greatest Otakuとかいうリアリティ・ショー。どつくぞ、腐れショウビズワナビ。
そしてクラウドファンディングで自社作品のゲーム化やネット配信アニメの制作費を集めようと試みるも、未達成終了。

当サイト内の関連記事:TokyoPop、それぞれの『後日談』 2014-4-22

中国よりに方向転換?


後にImageでWaywardを手がけるSteven Cummingsが作画を担当したPantheon High (神獣学園白書《パンテオン》)

まぁああ、そんな訳なんで、ヴァカ社長が今更「漫画出版事業再開、今度はウェブコミック投稿プラットフォームやるよ!」なんて言っても、「どの口が言いやがるか」「どうせちょっと不調になったらすぐ無責任に撤退する気だろクソが」と罵声しか返ってこないのも致し方ありませんな。

とはいえ、ちょっと気になる事も。
投稿SNSサイトの構築や運営は到底TP単独でやれる仕事とは思えないので、どっかのIT企業と組んでると思われるのですが、そこらへんが詳らかにされていないのでアヤシゲなムードが漂いまくり。

ウェブコミ投稿サイトの名称がpopcomicsでmangaという単語が避けられていたり、つべにコンセプト動画が公開されているヴァカ社長プロデュースで制作予定の劇場映画が中国系女性を主人公にした功夫アクションKnockoutsだったり、事業内容がジャパニーズポップカルチャーを離れて中国よりになってる気配がするんですが、もしかして中華資本入った…?

そもそもTokyopop社は設立時に三井ベンチャーズと日本ベンチャーキャピタルからの投資を受けており、他にもソフトバンクやインプレスのような日本のIT&出版系企業も出資してたはずなんですが。
てゆか、東京の事務所(初期は青山、後に勝鬨橋に移転。なんじゃこの『有閑倶楽部』から『こち亀』へのイメチェンみたいなのは)が名目上の「本社」だったのですが。現状はどうなっているのか。

功罪の「功」


Tavisha Wolfgarth-Simons & Rikki SimonsのShutterBox(シャッター・ボックス)

かつて自国産mangaに夢を見て、惨い裏切り方をされた諸姉諸兄はTPグローバルmangaに対する恨み骨髄、「TPの功罪とか言うけど、功なんてないよ。TPに『見出された』作家は元から才能があったんだから、いずれ世に出ていたはず」などと言っていますが、いや、TPにもいくらかの「功」はあったと思いますけどね。


一つ目は「manga編集者の育成」。

日本式漫画は、特に雑誌連載形式の漫画は、コンティニュイティに気を配りながら多数のライター、アーティスト、カラリングや文字入れ担当その他のチームで制作する大手のヒーローアメコミや、ほぼ作家野放しで印刷営業販売の委託だけやってるようなオルタナ系インディ出版社とは全く要求される仕事が違う。

TPが育てた、とまでは言いませんが、TPのOEL-manga制作の経験を経て日本式漫画編集者の業務に近い技術を身につけた編集者が北米の出版業界に僅かながら存在するのは確か。

で、そうして育った貴重な経験持ちの編集者を全員首にして、編集出版のノウハウも漫画家との信頼関係もドブに捨てたのが現在のTPなんですが。


もうひとつの功は、北米のmanga創作事情そのものには余り関係ないかもしれませんが、TPのグローバルmangaが翻訳配信された事がきっかけで海外のmangaスタイル作品に興味を持つに至った私のような日本人が(これまた僅かながらだが)生まれた事。

ただしグローバルmangaの日本での展開は、作品チョイスや翻訳のクオリティ、価格設定や宣伝等で目に見える反省点が多々あり、到底成功とはいえなかった。
そして、その反省点を生かして翻訳海外mangaラインを育ててゆくような事もなくあっさり撤退(第一弾が2006/09/29配信開始、2008/05/30を最後に新作は追加されていないが、既刊の配信は続いている)。ノウハウが共有・継承される事なくその場限りの徒花に終わってしまった。

更に、どうやら日本語版電子書籍が販売されている事は原著作者達に全く知らされておらず、私が調べた限りでは日本語版の印税を貰えた作家もいない模様。これはTPが着服しているとかではなく純粋に売れ行きが悪いからでしょうが…。

君の席、もうないから

恐らくヴァカ社長的には「作家の育成などというコストはかけず」「集まってきた作品のなかから中国市場向け映像コンテンツに利用できるタイトルを拾い上げ」「二次使用権を獲得してボロもうけ」…という皮算用ではないかと。

しかし前科が前科なので、英語圏のmanga描き達からは総スカン状態。
実際、競合他サービスが幾つも存在する現状でわざわざTPの新サービスを利用するメリットって特にないし。
日本の大手webコミック投稿プラットフォームは大手漫画出版社と提携し、投稿作品の商業出版化やマルチメディア化の道があるのですが、TPは「自社でオリジナル漫画の出版事業はやらない」と明言してますし。現在公表されている情報から判断する限り、旨味はないですなぁ。

コンベンションのTPブースに持込した人柱さんて何人くらいいたんでしょうかねぇ?