蜘蛛之巣城

Tapastic騒動とweb comicマネタイズ問題

旧聞に属するどころじゃなく古い話題ですが、まあメモ代わりに。

今年の8月に英語圏のウェブコミック作家界隈がザワつきまして。
韓国系企業Tapas Media傘下のウェブコミック投稿プラットフォームTapas(旧名Tapastic)の著作権管理関連の規約に対して コミック作家@Iron_Spikeさんがツイッター上で物申した発言が 第三者のtumblrで煽り気味にまとめられ、それがバズって大騒ぎという流れ。

Tapastic騒動その1

このTapasという会社が著作権関連で炎上したのは今年の4月に続いて二度目なのですが、まず4月のRight of First Refusal(優先交渉権)炎上事件。

大雑把にいうと、投稿者が自作品のライセンスを利用(自分のみで、あるいは他社と提携して)する場合、まずTapasに書面で通知し、Tapasとの折衝期間として設定された30日間を経過した後に初めて権利行使が認められる。
…というIP(知的財産権)に関する規定が勝手に付け加えられたのです。

Tapasというプラットフォームを利用して人気を獲得したタイトルが、その結果として他企業に注目され商業出版や映像化等でビッグマニーが動いたとしても、Tapasは単なる踏み台扱いで一銭の利益にもならんから、まずはウチに仁義通してからにしろや…って事でしょう。まあ気持ちはわかるけど流石に乱暴すぎるよねっていう。

規約の文言を見る限り、Tapasに対して絶対的な囲い込みの権利を与えるようなものではないんだけど、ユーザーの疑心暗鬼を招いて炎上。
「たっぷり営業宣伝費かけて育てたテメェんとこの子飼い作家にならともかく、ミラーサイト代わりにスペース借りてるだけで放置されてるアタシが何でそんな条件を一方的に課されなきゃなんないの!」
てな怒りの声もあったりで、最終的にはRight of First Refusal条項の取り下げで一応は鎮火。

その際、Tapas側は「自分たちは出版や映像化権ビジネスやキャラクターマーチャンダイズに詳しいから、むしろ悪徳企業に騙されて不利な契約を結ばされないようにクリエイターを守ろうとしたんだ」と言い訳していたのですが…。

Tapastic騒動その2

で、同年8月。
有望なクリエイターをスカウトし、編集者をつけて大型企画を任せるTapas creator incubatorというプログラムが発表されたのですが、これがまたまた炎上。

問題とされたのは主に二点。
1) 要求される仕事量が過剰。なのにそれに対する支払額や条件が不透明。
具体的には「縦スクロール型」「フルカラー」「1エピソードは約30コマ、1シーズンは20以上のエピソード」「1シーズンは3~6ヶ月の連載」

ほぼ週一更新のスケジュールではありますが、韓国のwebtoonは書籍の1pにあたる面積に大ゴマ2個程度と大きな余白にセリフ、背景もほぼ無しで顔アップ多用というのが多いので、 それでOKならこなせない量でもないと思いますが。反発している人たちは恐らく欧米のグラフィックノベルや日本の漫画並みの画面密度を想定した模様(Tapas側が求めているタイプの作品に関しては後述)。

2) クリエイターに知的財産権の一部を放棄する事を要求。漫画家は共同著作者という法的位置づけ。
まあ漫画家のオリジナルタイトル持ち込みならともかく、Tapasの提案による「企画もの」を連載する場合は全ての権利が漫画家に帰属しないのは当然ではありますが。

炎上時の書き込みの多くは過剰反応のように見えますが、北米のヒーローコミック業界では長らく作品やキャラクターの権利が会社持ちでアーティストの立場が弱かった歴史があるし、 現在30代のmanga系クリエイターは2000年代にTokyopopのグローバルmangaで痛い目を見ているので、警戒心が強くなってしまうのは仕方ないでしょう。

(ちなみにTokyopopが2015年にウェブコミック投稿プラットフォームpopcomics.comを始めるアナウンスを行なった時、社長が必死に 「このサービスは単なるプラットフォームです!著作権は100%クリエイターに帰属します!我々はright of first refusal(優先交渉権)も要求しません!」って力説してて笑えた)


私がツッコミたいのはそれよりも、Tapas側は「物理書籍を出版して大きな流通に乗せたり、TVやネット配信シリーズへの売り込みをしてやるよ!」と景気のいい事をいってるけど、 現行の連載作品にもそこまでの実績はないのに、なんでそんな皮算用できるのさ、という事なんですが。

webtoonそのものは商品になるか?

ここいらへんのゴタゴタを見るに、「実際は(投資家が満足する程には)儲かってないんじゃね?」という疑惑がわいてきたり。

サービスを継続できる程度には採算がとれてるけど、投資家受けする派手な計画や成果がないから 「Netflixにいつでも映像化権を売り込めるように、規約変更してIPを動かしやすくしましたー!」ってパフォーマンスしたかったんじゃないかなー。

韓国人気webtoonの翻訳配信をしつつ、進出先の現地作家によるオリジナル作品からヒットを狙っていくというのが基本方針なんだろうけど、今の処そこまでのヒットはない。
広告収入とフリーミアムでマネタイズしてはいるものの、人気のあるなし以前に英語圏の人間にとって漫画は基本的に「ネットで無料で読むもの」だからマニア以外に物理書籍は売れないし、 オールカラー縦スクロール形式の漫画は物理書籍とは絶望的に相性が悪いし。
どかんと儲けるには映像化権を売れる作品が欲しい。 投資家筋にせっつかれて、現地作家による自然発生的なヒットを待ってはいられず、編集主導で売り込みやすい企画を立てよう…って感じじゃなかろうか。あくまで私の個人的な勘繰りですが。


ちなみに2011年~2015年初めまで運営していた英語圏向けのウェブコミックホスティングサービスのInkblazers(タイ企業)はフリーミアムでマネタイズしようとして失敗。
韓国で成功しているwebtoonは大抵がネットコミックを集客に利用して別のネットサービスに誘導するというビジネスモデルだった。 (後にwebtoon原作の映画化やドラマ化という形でマルチメディア展開するようになったが、初めから漫画で儲けを出せていた訳ではない)

「暇つぶしに最適」

ところで、Tapas Mediaが鳴り物入りで北米デビューした際の社長インタビューを見ると、
「ウェブコミック版YouTubeを目指す」
「いわゆるコミックファン以外の一般ユーザーに探求する作品」
「日本のmangaとは別物、混同されたくない」
「ちょっと摘むのに丁度良いスペインの小皿料理軽食タパスをイメージしてTapasticと名づけた」
「韓国で人気の高いのは『日常もの』」
「暇つぶしに最適」

…で、アメリカ側の記者が例えに出してるのはPhD ComicsThe Oatmeal等。

更に「モバイル最適化オールカラー縦スクロール」が推奨されるという事から、 Inkblazersから流れて来たmanga系作家たちの中には一年程度で更新停止した人も多い上、 今年の騒動×2で、Tapasからアカウント消す作家もそこそこいるっぽい。

Tapasと同様の韓国系webtoon配信サイトの大手LINE webtoonへの移動を検討する人もいるが、「ランク上げ工作激化による競争疲れ」を警告する声もあったり。

そんな状況下で、旧態依然のウェブコミックホスティングサイトとして朽ちていくのかと思われていた老舗のsmackjeevesが モバイル対応して大改装。昔ながらのワイルド感も残しつつ適度に垢抜けて使いやすくなり、アカウントを放置していた作家たちも少しづつ戻ってきてなかなか良いムード。

…え?大騒ぎでサービス開始したTokyopopのPopComicsはどうなったって?
サービス自体は既に開始されてますけど、社長が英語圏のアーティストから蛇蝎のごとく嫌われてるので作品の集まりがイマイチで地味~な感じですな。
ただこちらも韓国企業と提携してるんで、今後は韓国の作品の翻訳配信がメインになっていくのかも。Tokyopopは紙書籍時代から韓国漫画を翻訳出版してましたし。


グローバルなウェブコミック配信事業については韓国企業に大きく水をあけられてる日本ですが、 市場は縮小したとはいえ、今の処はまだ「漫画そのもの」の販売でビジネスが成り立っているのは幸福ではあるよな、と思います。 オールドスクールな漫画読みとしては、漫画が「コンテンツ事業のネタ元」としか見られない状況というのはかなり寂しい。 デジタルネイティブの縦スクロール漫画家はそんな感傷とは無縁なのかもしれませんが。