このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのく頃に』『うみねこのく頃に散』のネタバレが記載されています

食堂の惨劇

基本的な仕掛けは言わずもがなにつき細部の検証を。

「親族会議に居合わせた全員が、金蔵の存在を認めた!」
「全ての人物は右代宮金蔵を見間違わない。いかなる変装であったとしても、右代宮金蔵を見間違わない!」


この赤字と矛盾しない「食堂の惨劇」の真相を考えると、「共犯でないのは誰か」が見えてくる。

パートナーであるクラウスとキリエが生存し様々な工作を行っている以上、ナツヒとルドルフも当然共犯である。
マリアは主観的真実を述べて周囲を混乱させる事はあっても、基本的に「意図的な嘘」はつかない。よって、「『薔薇庭園で傘を渡した人物は金蔵である』とマリアが明言した」というローザの証言は、ローザによる捏造という事になる。金蔵生存幻想に加担しているローザは共犯である。

では、エヴァとヒデヨシは?

ルドルフ夫妻とローザはともかく、当主の座に拘りクラウスを強く憎んでいるエヴァを金だけで懐柔できるとは思えない。まして昼のプレ親族会議において、弟妹たちは「金蔵が自然死以外の原因で死亡しクラウスが跡継ぎの資格を失った場合、次の序列であるエヴァが跡継ぎになる」という条件でクラウスを恫喝している。金蔵の死が確認された場合、エヴァは確実にゴネるだろう。

という事は、「食堂の惨劇」の真相はハンニンの入れ知恵によりエヴァ以外の兄妹が結託した、エヴァ一家虐殺事件という解釈になる。当然、計画を受け入れた時点でジョージも生かして返す気はなかったろう。


午後2時50分~3時半近くのプレ親族会議において、キリエの「金蔵死亡説」で追い詰められたクラウス夫妻が書斎の真当主に相談。午後6時の夕食までの2時間半の間にエヴァ以外の弟妹を金(キャッシュカードの10億円)で抱きこむ。
この段階で金蔵の死と真当主の存在、時限爆弾による証拠隠滅可能という情報も開示される。使用人たちも呼んで「時期当主テストの狂言殺人事件」実行を命令か。

食堂で『金蔵』を待つ間、ローザがルドルフに「マリアが金蔵から傘をもらった」と証言する。この際ルドルフ夫妻とローザは金策のあてを気にかける発言だけだが、エヴァは金銭問題よりもクラウスが跡継ぎの地位を確かにし、自分たちが勘当される事を強く恐れる内面描写がされている。
更にキリエ、ルドルフとローザの会話によって「マリアが金蔵に会ったと明言している」とダメ押しされる。

午後10時過ぎに源次が「当主様」の来臨を告げ扉を開けた瞬間においては、エヴァとヒデヨシは「金蔵は生存しており、親族会議に現れた」と信じた状態であり、ここで即殺害すれば赤字とは矛盾しない。傘の虚言は赤字を成立させる為だけのメタ的な都合により導入されたもの。

「金蔵がやってきた」というアナウンスに気をとられ扉に意識が向いている時に、茶のワゴンに隠していた銃器を取り出したハンニンが背後から撃ったのだろう。エヴァとヒデヨシは金蔵生存を信じた状態で死亡した事になる。
そして長女夫妻の惨殺死体を傍らに親族会議、全員で金蔵生存幻想を前提にした作戦への協力を呑まされる。

問題は、この時に源次も殺害されたのだろうかという点である。金蔵駒がロノウェを従えているのが生存の暗示かとも考えられるが、この後の展開は分刻みのタイトなものなので、この時点でまとめて始末しておいた方が都合はいい。
使用人達がやってくる前に、クラウスが「じたばたしても始まらん。源次さんに任せよう」と口にしたのが、「血なまぐさい計画の実行を思いとどまるように、と源次が真当主を説得してくれるのを待とう」というニュアンスだとすると、源次は計画に反対していた事になる。

朱志香と譲治

ジェシカが(狂言という認識であっても)共犯者であるのは明白だが、指示をうけたのはどの時点だろうか。
また、ジョージも(久しぶりに会ったバトラをかつぐ趣向と騙されて)魔女幻想に加担しているのだろうか?

譲治の選択

ジョージについては、生真面目な常識人なので過度に悪趣味な冗談の片棒を担ぐ事には抵抗しそうだ。
篭城準備の際の言動が妙に冷静すぎるし、バトラをゲストハウスに引きとめようとする言動がやや不自然な気もするが、エヴァ達の不審を買わずに夕食までの間に協力を約束させるのはいささか難しく、純粋被害者と解釈した方が妥当か。

「当主の資格テスト」への呼び出しはジェシカ、ジョージの順だが、タイムテーブルを考慮すると殺害されたのはジョージの方が先であろう。
『金蔵の三択問題』に対して「ミステリ面」でのジョージが何を選んだかについては推測する手がかりはない。選択する前に射殺された可能性が高そうだ。

EP2での「実際の」殺害時のディティールは不明だが、EP3、4では共に正面から、自分に銃を向けているのが何者かをはっきり認識した状況で撃たれている。更に今回は、それまでのエピソードでは『シャノン』に婚約指輪を贈り将来を誓い合った時刻と場所で殺害されている。
偽書作家のジョージに対する悪意のようなものを感じるが、しかしジェシカに向けられた悪意に比べればはるかにマシなレベルである。「現実の」ジョージのとった選択に対し失望を感じているが、同情の余地はあると考えているのか。

朱志香の選択

10時40分頃に地下牢組からゲストハウスに第一回目の電話があるが、この時ジェシカはカノンと会話を交わし、電話を切る際にわざわざ「父さんやカノンくんたちが無事だっただけでも儲けもん」と発言している。少なくともこの時点で既に「カノン存在幻想」に加担している。
その前にクラウスと会話しているのでその際に初めて狂言について打ち明けられたとも考えられるが、概略の説明は夕食以前に済ませていると考えた方が自然だろう。

狂言の目的については「『当主様』が後継者を決めるためのテスト」と説明されていたのか、「6年ぶりに帰ってきたバトラをからかう趣向」だったのか。
クラウスとしては一家の生存のかかった状況なので、「万一失敗したら一家が路頭に迷う。冗談ごとでは済まない問題」くらいの事は言いそうなので前者か。
郷田と熊沢から「ナツヒが頭部を砕かれて殺害された」と既に報告をうけているにもかかわらず、クラウスとの会話の第一声が「母さんは無事なの?!そこにいるの?!」なのは、「ナツヒが人質にとられている」のを事前に明かされていた為に思わず安否確認をしてしまい、クラウスにたしなめられて「うん、わかってるよ。聞いてごめん」と答えたと解釈できる。

11時10分過ぎにジェシカが本館に呼び出されてから実際に殺害されるまで、30分程の時間が経過している。ジョージ殺害に向かった真当主が席を外している間に、クラウスがシナリオを渡して手はずを説明したのだろうが、この時点ではナツヒたちはまだ生きていたのだろうか。ナツヒを説得役に利用した後、食堂に送り届け、その場で他の者達と一緒に殺害した可能性もある。


ジェシカに関しては、「カノンとの恋愛関係」は完全なる幻想であり、実際の彼女が愛と承認を強く求めている相手は両親である。
実際にエヴァ一家が殺害されているのを知らないまでも、何か不穏当で不正な事態が進行中らしい事には感づいていただろうに、ジェシカは

  1. 自分が非難される事になろうと断固として事態に抗う事もせず、
  2. 両親を犠牲にしてでも事態を止めようともせず、
  3. 自分と両親の安全と幸福のみを選び、バトラを騙す事に加担した。

未成年なのだし、それも仕方がないのでは…とも思うのだが、「愛と勇気と自己犠牲」にあふれた幻想描写との著しいギャップ、そして至近距離正面から相手をはっきりと認識した状況で顔面を損壊されるという殺害方法には、並々ならぬ悪意を感じるのだ。
「自室で、気を許していた友人に殺害される」点ではEP2と同じだが、EP2では「背後から刺されて何がおこったのかもわからないうちに絶命」であり、やはりヤス作の聖典とバトラ原案の偽書ではジェシカに対する温度差が著しい。


ちなみに本エピソードにおいては、夕食後にゲストハウスに帰る途上で、地の文によって「ジョージとシャノンの仲をからかうジェシカに対し、ジョージが『カノンくんとの仲』について尋ねる」場面がある。ジョージが共犯でないとすると、 ここはバトラの地の文による内面描写含めて幻想という事になる。
そして、当主のテストに向かう前のジェシカが口にしているのは「父母の安否」のみ。カノンの事は一切口にしていない。

楼座と真里亞

EP2同様に、今回も「ローザの一人称描写」が登場するのだが…

三人称:何所かで目覚めたローザ
ローザ一人称:さくたろうと会話
三人称:ローザ、さくたろうに手を引かれて駆け出す
ローザ一人称:ローザ転ぶ、さくたろうと会話
「マリアがいてくれるから、私は私でいられるというのに」

ローザ一人称:さくたろう消滅
ローザ一人称:回想、マリアの頭を叩き、ローザの腕が砕ける

三人称:ローザ巨大な腕に掴まれる
ローザ一人称:ローザ巨大な腕に喉を裂かれる
三人称:ベアトとマリア、何度もローザを虐殺

この後、三人称描写でゲストハウスで目覚めるマリアが描かれる。

流れからすると、一連のシークエンスはマリアの夢らしいのだが、マリアにとってさくたろうは死んでいるので、前半部は語り手が挿入した幻想。ローザのさくたろう殺害時の回想以降の三人称描写が作中のマリアの見た夢という事になる。
「マリアがいてくれるから、私は私でいられるというのに」というのもローザ自身の本当の述懐ではなく、語り手による挿入という事になるが、「誰それがいてくれるから、私はこういう私でいられる」という認識は本シリーズ全体を貫くテーマでもあり、ベアトリーチェの動機を暗示する為に入れたのだろう。

ローザのこのセリフはEP2幻想シーンで登場したものであり、今回マリアが自分にとっての黄金郷の幸せを「いつも私の事を守って恐ろしい敵と戦ってくれるママ」と言っているあたり、黒ヤギ軍団相手に大立ち回りを演じたEP2のローザはマリアの理想の具現化なのだろう。
EP2ラストで、最期の瞬間に「自分にとって一番大切な宝はマリア」と気付いた一人称描写も理想化された嘘。あのおぞましい黒ヤギとの戦いこそが、マリアにとっての黄金郷の夢だった訳だ。


本EP4において、薔薇園のマリアを迎えに行ったローザにタオルを差し出すのがシャノンではなくカノンなのは、「この場の母娘の微笑ましい描写は全て幻想である」というサインかもしれない。

「中の人」のメッセージ

今回登場する右代宮金蔵の第一声がバトラの口癖である「駄目だな、全然駄目だ」なのは、「金蔵の『中の人』は戦人である」というサインであろう。EP2の5日早朝、金蔵の覚醒直前シーンのモノローグがアヴァンのシャノンに酷似しているのと対になっている。

偽書が想定している第一の読者はエンジェであり、本エピソード中の金蔵の発言のかなりの部分は、「実際の六軒島で何が起こったのか」「其処で右代宮戦人はどのような選択をしたのか」を暗示し、エンジェに人生の選択を迫るメッセージであると思われる。

  • 碑文の謎を解いた者には「金蔵の『全て』」が継承される。
  • 孫達の誰かが「金蔵の『全て』」を継承するにふさわしいと認められたなら、儀式は中断する

    =「ベアトリーチェが出題する碑文の謎」と「金蔵が出題する三択問題」は同じ意味を持つ

碑文を解いた者は『金蔵』になる。
『金蔵』ならば三択問題で迷わず3を選ぶ。
3を選んだ『金蔵』は黄金と名誉と魔女を手に入れた。

上記を踏まえたバトラからエンジェへの問いは、

「幻想のジョージ」「ミステリのジェシカ」「ゲーム盤内現実のマリア」は3を選んでいる。

では、「『現実』のバトラ」は何を選んだと思う?何を得たと思う?
最後の右代宮であるお前は、この「次期当主の資格テスト」で何と答える?

金蔵駒(=バトラ)は「幸運の女神は強欲に微笑む」とも主張している。
当然、自己犠牲や愛と執着の放棄などはもっての他だろう。エンジェに対しても、暗に「自分の欲を手放すな」とメッセージを送っている事になる(エンジェのパートナーが「強欲のマモン」なのは何らかの暗示だろう)。

キリエが殺害される直前にかけた電話でバトラに対して行った助言、「魔法を信じろ、疑うな、受け入れろ」は、EP8におけるバトラ卿からエンジェへの助言と露骨に同じである。

バトラはエンジェに対し、表面的には2(魔法END)を選ぶように誘導しているが、本心では3(手品END)を選ぶ事を期待しているのだろうか。「どれを選んだかよりも、選択した理由と覚悟の方が大事」なので、信念を持って現実を生き抜いてくれればそれで良しとするのかもしれないが。
兄として、エンジェが心穏やかに幸福に生きゆく事を望みつつも、真実を知って自分を理解して欲しいというアンビバレンツな思いがある、という事かもしれない。

マザコンとファザコン

ベアトはバトラが右代宮籍を離れた理由を「知らない女に父親を奪われたから」「父親を独占したいから」と解釈している。

しかし、ルドルフ一家のゴタゴタについて聞いた人間の大半は、「母・明日夢への愛に基づく、父親への怒り」と解釈するのではないか。

この後に「父系の血統」をめぐる争いになる為に父親との関係に焦点を当てているとも解釈できるが、出生問題を利用してバトラにダメージを与えるなら、ここで「母・明日夢との結びつきの深さ」を強調しておいた方が効果的ではないだろうか。

基本的にバトラは(概ね健全な範囲の)マザコンなのだが、ベアト自身が父親との関係に問題を抱えている為に、他者の人間関係にそれを当てはめて的外れな解釈をしているという事だろうか。
自身も婚外子であるベアトとしては「父親が外に女を囲って子供を産ませた」事に反発するバトラの態度に傷ついているという事だろうか。
あるいはベアトには『母』が存在しない事を示しているのだろうか。

…あるいはこの後のEP5、6で暗示される母子関係のドラマとの兼ね合いなのだろうか。