このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのく頃に』『うみねこのく頃に散』のネタバレが記載されています

留弗夫の告白

「……もし、死産が明日夢さんで、お母さんの方がお兄ちゃんを出産していたなら。……何か歴史は変わっていたかもしれない」

EP4の赤字を分析すればさほどの難なく導き出される答ではあるものの、実際に明記されるのは、引っ張りに引っ張った末のEP8という、戦人の出生の秘密。

過去のゲームでは「家族そろったところで話す」と何度も言っているにも関わらず、何故か留弗夫と霧江の二者間でのみ語られる。

これでもかとエンジェ相手に家族愛を見せつけるのがEP8内盤面の目的にもかかわらず、バトラ卿はその場に立ち会わず、その事実に対する感慨を述べることはない。
ベアトと夏妃のように「カーチャン!」「戦人!」とお涙頂戴の和解場面を繰り広げてもいいはず、というか、その方が流れとして自然なのに、決してそれは描かれない。

良心の呵責に耐えかねて秘密を明かしたルドルフに対し、キリエは絶句しながらしゃがみこむが、その内面までは描かれない…。

霧江の18年

1967年
霧江と明日夢の懐妊事情は、霧江の方は不作為、明日夢の方は留弗夫を獲得する為に意図的に仕組んだ?(少なくともキリエはそう思っている)
ルドルフはこれを期に癒し系のアスムと家庭を築く気になり、キリエを犠牲にした。

キリエは私生児懐妊によって須磨寺家のメンツに泥を塗り、命まで狙われる。
事情を把握した金蔵は、須磨寺家に対する多額の資金援助により、キリエを裏から保護。


1968年
7月15日、キリエ出産、アスム死産。ルドルフは医者に大金を渡して赤ん坊のすりかえ。
金蔵はキリエが「死産」して、当のルドルフすらキリエとの関係を絶とうとしていたにもかかわらず、その後もずっと須磨寺との経済関係を維持し、キリエを裏から保護し続けた。(金の動きを不審に思い、調査の上事情を把握していた?)

アスムは事情を知ってか知らずか、バトラに愛情を注ぎ育て、一方ルドルフはキリエとヨリをもどす。
キリエはバトラに対し「父の会社の同僚」として接し、チェス盤理論を教え、バトラはキリエを姉のように慕うようになる。
キリエはアスムに対する恨みを募らせ、殺害を決意。


1979年
キリエはルドルフを奪う為、計画的に妊娠する。


1980年
アスム死亡。アスムの死は殺人ではないが、ルドルフはアスムが全てを知った上で自分から幕を降りたようだという。
バトラの出生の秘密に気づかぬふりで良き妻良き母で通すストレスに加え、キリエが二人目の子どもを身ごもったプレッシャーで死に追いやられた??
結婚生活が10年以上続いたのにアスムとルドルフの間には次の子が生まれていない。最初の死産の際に不妊になった?

アスムの喪も明けないうちにルドルフとキリエ入籍。キリエのお腹の子はアスム存命中に受胎したのは明らか()。
バトラ、ルドルフの不実に怒ってアスムの父母のもとに。右代宮の籍からも抜ける。
縁寿の誕生後は、時々バトラとキリエは面会し近況を報告しあう。
成長するに従いエンジェは兄になつくが、キリエは内心バトラに対する憎しみを募らせてゆく。

(註)1986年10月4~5日に6歳、98年10月に18歳とすると、縁寿の誕生は1979年10月6日~1980年10月3日のはず。
となると、明日夢が未だ健在な86年の親族会議時点で、バトラは知らずとも既に誕生していた事になってしまうが。
作中描写を見る限り、明日夢死亡から喪の明けぬうちに霧江と入籍し、エンジェが私生児として誕生するのを防いだように見える。
おおざっぱに「86年に6歳になる」で親族会議後の誕生とすると10月~12月中誕生か。
明日夢の死はその直前。喪が明けないどころか四十九日過ぎるか過ぎないかで再婚という事になる。
10月中に先妻が急死し、ぎりぎり四十九日過ぎて年も明けぬ12月中に再婚、直後にエンジェ誕生…となると、先妻の両親も先妻の子も怒り狂うのが当然だろう。12歳のバトラ自身よりも、祖父母が「そんな男の許に娘の忘れ形見を置いてはおけない」と実家に引き取る事になったというのが実情では。

金蔵に無断で事を進めては、ヘタをすると勘当される恐れもあるので、ルドルフとしては入籍前に直接金蔵の許可を得るために島に来ざるをえまい。クレルの回想シーンは12月頃だろうか。

1983年
キリエ、バトラを促していとこ達に手紙を書かせ、親族会議時に届ける。


1985年
キリエ、親族会議時に金蔵の生存に疑いを持つ。


1986年
アスムの両親あいついで死亡。
ルドルフとバトラ和解し、バトラ右代宮籍に復帰。
ルドルフ、裁判の和解金に億単位の金の必要に迫られる。
ルドルフ夫妻はクラウスの恐喝をたくらむ。
キリエ、遂にバトラの殺害を決意。「刃物も用意した」。しかし「奇跡」が起こって「18年の嫉妬の地獄」が終る。


1994~95年頃
記憶喪失になった27、8歳のトオヤの脳裏に「十八歳」という数字がこびりついていた。


1996年頃~
EP8を除くどのゲーム&カケラ内でも、ルドルフはキリエとバトラに「家族会議」を提案しつつも、結局事件が起きたせいでバトラの出生事情を告白していない。そしてEP8内でさえ、バトラ卿がその事実を知ったという描写はない。
しかし、偽書執筆時点(記憶回復後)のトオヤは自分の出生の秘密を知っている。金蔵の資料を受け継いだヤスから聞いたとの推測もできるが…

嫉妬の地獄

EP6によると、キリエの嫉妬の地獄は18年で終った。

キリエ「18年目にしてようやく、その決意がもてたからこそ、……絶対の意思が奇跡を、……私にもたらしてくれたんだわ」
地の文「明日夢の死は、断じて殺人ではない」

(ここで1行空け)

地の文「しかし霧江は、死んでしまえと常に呪い続け、……18年目にしてとうとう、自らの手で殺してやろうと決意するに至ったのだ」
地の文「そして、……実際に、……殺すための刃物さえ用意した……」
地の文「そこに、奇跡が起こったのだ……」

(アスムが死んだのは奇跡ではない。どの道キリエが殺すつもりだったから、過程が違うだけで結果は同じという説明)

キリエ「……奇跡なのは、彼女が死んだにもかかわらず、”私が自らの手を汚さずに済んだ”。この一点に尽きるのよ」

話の流れから、「キリエはアスムに嫉妬し続け、18年目に遂に彼女を殺そうとしたが、その矢先にアスムが死んでくれて神に感謝した」 と受け取りそうになるが、

バトラ12歳+妊娠期間1年+5年…?

キリエはアスムが懐妊するまでは、アスムを侮ってノーマークだったはず。計算が合わない。


EP3でキリエは「ルドルフとアスムの息子であるバトラが生きている限り、自分はアスムへの嫉妬に苛まれ続ける」という趣旨の発言をしている。
だからこの発言は、「内心でバトラの死を願い続け、18年目にしてバトラを殺す決心をし、刃物も用意した」なのではないだろうか。


そして、よく発言者に注目して再読すると、キリエ自身は「自分の子を死産した」とは言っていない。

キリエ「語るも呪わしい物語」
キリエ「向こうの懐妊は結婚に結びつき、私の懐妊は意味をなさなかった」

フェザリーヌ「しかし…霧江の子は死産だった」
エンジェ「……明日夢さんからはお兄ちゃんが生まれた。…しかし、お母さんからは、誰も」

ルドルフの為なら殺人も辞さないと決意を固めた。
そしてバトラを殺す決意をし、刃物を用意した。
そうしたら、奇跡が起こった。


この「奇跡」は、恐らく「バトラが自分の血を分けた息子であることが判明した」「だからもう、自分はバトラを見てもアスムへの嫉妬に苛まれずに済む」

六軒島の惨劇の最中、ルドルフの為に殺人を犯し、バトラをも殺そうとナイフを握った。しかしルドルフの告白かヤスの情報提供によってか、バトラが我が子と知った。

…記述トリックで慎重に隠しているが、こういう事ではないかと。

霧江と明日夢のIF まとめ

キリエもアスムも死産 ルドルフとアスムの結婚維持
キリエ死産、アスム出産 ルドルフとアスムの結婚維持
キリエもアスムも出産 ルドルフとアスムの結婚維持
キリエは我が子バトラに常軌を逸した英才教育
キリエ出産、アスム死産 ルドルフとアスムの結婚維持
ルドルフは裏金を使って赤ん坊の取替え

キリエがどうしようと、ルドルフとアスムの結婚は阻めない。バトラを呪うのは、あらゆる意味で筋違い。

キリエ「向こうの懐妊は結婚に結びつき、私の懐妊は意味をなさなかった」

…という事が判明し、18年間、バトラを見るたびに苛まれてきた嫉妬の地獄からは開放された。


ところで、アスムとの正妻の座争いがなかった場合、キリエは仕事の邪魔として何ら未練なく堕胎していたかもしれない。
アスムも無事出産していたら、キリエは対抗意識から我が子に過剰なプレッシャーをかけて育てあげたゆえに、バトラは確実に今とは似ても似つかない性格になっていただろう。
アスムがああいう性格ではなかった場合、ゆがんだ母子関係の影響で、バトラはやはり今とは似ても似つかない性格になっていただろう。

そして良好な母子関係であったが為に、バトラは父の不実に怒って家を出る事になり……バトラがあのバトラである限り、6年前の右代宮との絶縁は絶対の運命な訳だ。

「俺は、………いつから殺してたんだろうな」

バトラが自分の子ではないのを知りながら、良き妻良き母であろうと夫と子供には自分のストレスを一切悟らせずに12年強生きてきて、ダメ押しのようにキリエの懐妊プレッシャーをかけられ、遂に自壊…としたら、「バトラが誕生してからずっと、12年かけてゆっくり殺されてきた」が答えだろう。

バトラはその存在によって12年かけてアスムを死に追いやり、その不在によって12年かけてエンジェを死の瀬戸際に追い詰めてしまった事になる。

ある疑惑

EP4盤面、殺害直前の電話でのキリエの発言。

「……あなたのこと、明日夢さんの息子だからと、冷たくしたこともあったの。……その日のことを、許して」

バトラがキリエに促されて書いた手紙にシャノン宛のものが含まれていなかったのは、実はキリエが隠匿したからではないか。

少なくともあの場でそれが可能なのはキリエだけ。
直接的な恋敵のジョージが配ったのは作者(この場合は八城ではなく、竜騎士)のミスリード。
手品の得意なヤスシャノンが手元を真剣に注視しているし、仮にジョージが隠したとしても、キリエに「あらシャノンちゃん宛てのは?」と言われて露見してしまう。


一見「おとなしく控えめで家庭的、ナイト気取りの男性が保護欲をそそられるドジっ娘」のヤスシャノンは、キリエが憎悪する明日夢と同タイプの女だ。
ルドルフと容姿や言動の似た「明日夢とルドルフの息子」のバトラが、「明日夢のような狡猾なブリっ娘」シャノンの「手管にひっかかった」のを知って、キリエは瞬間的にイヤガラセ行動に走ったのでは。

実際は、バトラは「明日夢とルドルフの息子」ではなく、シャノンヤスは「明日夢のような狡猾なブリっ娘」といえない事もないが、当時のバトラが魅力を感じた点は「一見大人しそうだが、話してみるとポンポン面白い反応が返ってくる知的で楽しい相手(6年前の時点ではバトラより背が高くて「おねえさんっぽい感じ」だった)」だからであり、実態は正反対である。
「キリエとルドルフの息子」のバトラは、「キリエのように知的で毒ッ気のあるヤス」に惹かれたのだ。

「素でヤスの事なんか忘れてた」でも話は成り立つが、上記のような無意味な勘違いの末に「他愛ない、衝動的なイヤガラセ」が行われて届くはずの手紙(内容は愛だの恋だのではなく、せいぜい「またミステリの話をしよう。よかったら連絡をくれ」と住所を教えたくらいだろうが)が届かず、ピタゴラスイッチのようにその後の一連の悲劇の元になっていたとしたら、なんとも皮肉な成り行きである。