このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのく頃に』『うみねこのく頃に散』のネタバレが記載されています

『散』の暗示

『散』のドラマを通して見ると、どうしても「バトラが金蔵の跡を継いだ」としか解釈できない。

EP5: 駒バトラは黄金を発見し当主の指輪を委譲され、幻想の金蔵から「我が魂も当主の座もすべてバトラのもの」と認定されている。そしてメタバトラはラストでミステリを解いてゲームマスターとなり、領主の座に着いた。

EP6: GMバトラは当主の指輪をはめて金蔵の書斎を自室にし、源次や熊沢から「お館様」と呼ばれ、彼等を呼びつけにしている。

EP7: バトラは不在だが、代わりに「生きた金蔵」が登場する。86年の六軒島には、この2人は同時に存在し得ない。

EP8: 魔法エンドのエピローグでバトラはベアトから「金蔵の生まれ変わり」として扱われている。

そして、バトラ=金蔵である以上、EP4で出題された金蔵の三択問題において、彼は3を選んだはずなのだ。

したがって、六軒島で黄金をめぐる争いが起こった場合、彼は他の全てを犠牲にして我が身とベアトリーチェを守り、島を離れたはず。

ある魔術師のものがたり

六軒島の物語を魔法解釈によって語ると、以下のようになる

ある魔術師のものがたり
むかし、むかし、愛しい魔女ベアトリーチェと死に別れた魔術師ゴールドスミスは、再び2人が結ばれるために、千兆分の一の奇跡を呼び寄せる魔法を行使しようとしました。

魔術師は自らの血と肉で作り出したヒトガタの器に愛する魔女の魂を宿らせることで、彼女を蘇らせようとしました。


一度目の実験は、かつての記憶を取り戻さぬまま器が壊れて魂が逃れだしてしまい、失敗。
二度目の実験のために作り出した器は、完成する前に壊れて失われてしまいました。


失意のゴールドスミスはすさんだ日々を送りますが、決して奇跡を諦めることはありませんでした。 いつの日か愛する魔女が蘇るようにと、彼は黄金の魔法を込めた碑文を掲げたのです。


そして彼の命数の尽きるその日、人生のすべてを費やした祈りに応えるかのように、奇跡は起こりました。
壊れて失われたと思っていた器にベアトリーチェの魂が宿り、ゴールドスミスの前にやってきたのです。忠実な執事が壊れた器をひそかに拾い集め、つなぎあわせていたのでした。
器には少しひびが入っていましたが、そんなのは瑣末なこと。それが愛しいベアトリーチェであるのは確かなのですから。


ようやく愛する人と再会したゴールドスミスですが、彼の器は劣化し命の限界を迎えてしまいました。
しかしその魂は冥府へと旅立つことはありませんでした。島に張られた結界の為に、彼は死せる後も館を彷徨い続ける運命なのです。

ひとり取り残され、恋人と抱きあうことのできぬ我が身を嘆くのは、今度はベアトリーチェの番です。運命はなんと意地悪なのでしょう。


ヒトガタの器は自分がベアトリーチェであると思い出す以前に、ひとりの少年に恋をしていました。
彼は若き日のゴールドスミスに姿も気性もそっくり。まるでゴールドスミスの魂の器として生み出されたかのよう。

…ベアトリーチェの魂を受け継ぐ前の妾があの少年を愛したのは、彼がやがてゴールドスミスの魂を受け継ぐ器だからではないか?
彼がゴールドスミスならば、次の10月が巡ってきた時に、きっと妾を迎えにやってくるはず。


けれど次の10月に少年は現れませんでした。ゴールドスミスを失った島は魔法の力が急速に薄れてゆきます。ベアトリーチェの器も、どんどんひびが大きくなり、このままでは次の10月が過ぎる頃には三つに割れて壊れてしまうでしょう。


その次の10月、器の少年は島にやってきました。既に青年というべき年齢になった彼は、かつてのゴールドスミスに瓜二つ。

ベアトリーチェは、彼に黄金の魔法を授ける試練として碑文の謎を投げかけます。
謎を解くにはいくつかの鍵を知っていなければなりませんが、彼にはあえて鍵を与えませんでした。
知らないはずの事を思い出し、謎を解けたなら、それは彼がゴールドスミスである確かな証。自分で組み上げた魔法ならば、彼に解けないはずはありません。

器の青年は見事、碑文の謎を解きました。そしてベアトリーチェとの愛を蘇らせました。千兆分の一の奇跡が起こったのです。ゴールドスミスとベアトリーチェは2人の若者として蘇ったのです。


しかし、それ程の奇跡が何の代償もなしに起こるはずもありません。運命はこの奇跡の対価として、13人の生贄を要求しました。

かつて2人が出会い、結ばれた日と同じく、呪われた黄金をめぐり人々は殺しあいました。
そしてその最中、器の青年はかつてのゴールドスミスと全く同じ選択をし、全く同じ行動をとりました。

黄金の魔術師は、ここに真の復活をとげたのです。


2人は呪われた島を後にしました。かつてと同じく小船に乗って、永遠の恋人たちは2人だけの世界に旅立ってゆきました。

かくして、命尽きる最後の瞬間まで足掻き続け、絶対の意志で奇跡を呼び寄せようとした狂気の魔術師ゴールドスミスの執念は報われ、その偉大なる魔法は成就したのです。

...and the golden sorcerer got married the golden witch, and then there were none.

金蔵ひとり勝ち。

現実解釈においても、死の間際に贖罪を果たし、本当に愛する我が子に全てを遺して思い残す事なく死に、その愛児は若き日の自分にそっくりな青年と添い遂げると誓い合い、心底憎んでいた右代宮家は生身の血族ではなく単なる企業グループと化し……と、好き勝手やって周囲の人間の運命を狂わせまくった挙句、右代宮金蔵の願望が全て成就してしまう結末。

理不尽極まりないが、天才は天災として諦めるしかないのか。

暗号解読

無論、現実には生まれ変わりなどありはしないので、バトラは解読の為の鍵を知らずに碑文の謎を解いたのではなく、忠臣トリオが世話を焼いたのだろう。

熊沢や南條の遺族に貸金庫の鍵が送られていたのは、彼等が欲に目がくらんで大金と引き換えに殺人の共犯を引き受けたのではなく、社爆破などからヤスの精神状態がおかしいのを察知して「はいはい」と調子を合わせただけだろう。狂言ならばともかく、実際の殺人を手伝うつもりなど更々なかった。

ヤスの煮詰まりは金蔵に鬱屈をぶちまける以外に解消の方法がないものだが、肝心の金蔵が死んでいる以上、「ヤスの初恋の人で金蔵にそっくり」なバトラに受け止めてなんとかしてもらうしかない。
恐らくは源次がヤスに張り付いている間に、熊沢が今まで自分の推理した資料その他を渡して一緒に解読したのだ。

碑文が掲げられた本当の意味を知り、既にその目的が果たされた事も知っている熊沢が、真剣に碑文の暗号解読を試みていた痕跡がある()処から考えると、あるいはバトラもヤス同様に碑文を『解かされた』のかもしれない。


幻想サイドでのワルギリアのバトラへの世話焼きは、そのあたりをダイレクトに反映しているのだろう。
八城十八の偽書内においては、親族達に対する惨いあつかいと対照的に、使用人達の扱いは幻想キャラも現実キャラも非常に良いのだ。バトラの熊沢たちに対する感謝の念がうかがえる。

(註) 理御の解読アシストとして行っていた可能性はあるが、回想シーンを見る限り理御は源治からヒントをもらった以外は独力で回答に辿り着いている。熊沢は完全ノータッチ。理御の当主継承後まで熊沢が解読用資料を残しておく理由はないはず。
また、熊沢の遺品の中には「礼拝堂のレリーフの写真」が含まれていた。六軒島に頻繁に出入りしレリーフを何度も見ている熊沢とシャノンには必要のないものだ。

理御の後をつけていた源治は作動後のレリーフを見て暗号の最終的な回答自体は知っている。忠臣トリオは「最終的な回答に辿り着くためのロジック」を逆算で割り出し、手元に礼拝堂の写真を用意して、「レリーフの存在自体知らない誰か」をそこに誘導する必要があったと推測される。

EP5の駒バトラによる解読は真犯人の差し金による八百長であるのは前後関係から明らかだが、『散』の一連のエピソードが真相のほのめかしを意図したものであることから、「忠臣トリオ、中でも熊沢がバトラの世話を焼いて暗号を『解かせた』」のはほぼ確実なのでは。

黄金の返還式

それから後については、第一の晩の殺人が起きる前に黄金を発見したか、第一の晩の殺人は使用人総動員の狂言だったか、あるいは実際の殺人を犯そうとしたヤスを源次たちが力づくで止めたか。ともかくヤスは手を汚さずに済んだ。

EP8の黄金の返還式や金蔵の生前贈与は、エンジェ向けの甘ったるい夢というだけでなく、金蔵死亡隠匿やヤスの出生の秘密を知ったバトラが、親族間のもめごとを回避する為に「エア金蔵」による財産分配とヤスの右代宮一族への迎え入れを行おうとした事情を反映しているのかもしれない。

「生前贈与」を済ませた後、遺書を残した金蔵が失踪し、「親父どのは万事に自分で始末をつけて、あの世に旅立ったんだな」「実に金蔵さんらしいですな」と「稀代の変人らしい人生の始末」を演出して八方治めるつもりだったのかも。


とにかく大金さえもらえればいいルドルフとローザは話に乗るだろうが、「名誉」「家督」「信用」に拘泥するクラウス夫妻とエヴァは簡単に納得するとも思えない。
バトヤスが対外的な当主の継承はクラウスでかまわないというスタンスでも、エヴァは金蔵の死亡隠蔽と使い込みの責任を追及するだろう。クラウス・ジェシカ父娘が当主継承権を失えば、次はジョージが跡継ぎ…と主張するはず。
その場合、クラウス以上にナツヒが反発するだろうし、両親をそのような立場に追い込んだバトラにジェシカは怒りを覚えるだろう。

本来は次期当主争いに興味のなかったジョージも、「シャノンを妻にして右代宮家から独立」という未来を失い、しかも『シャノン』は自分を袖にして恋敵のバトラとあっさりヨリを戻し、そのバトラが真当主継承…となれば、母親の側につくかもしれない。ドロ沼である。

このような事態を招いたバトラは、ジョージやジェシカから「お前さえ帰ってこなければ」と口々に言われたかもしれない。ヤスもナツヒたちに「汚らわしい」と罵られたかもしれない…

共犯報酬

六軒島で虐殺を行った人間は、「時限爆弾で証拠隠滅が可能である」事を知っていたはず。
そして虐殺を決意した時点で、スイッチのある地下貴賓室に出入り可能な状態だったはず。
また、大量虐殺には銃器を用いたであろう事も推測できる。

この事から、それが「ベアトのルーレット」によって4日時点で共犯者に選ばれた親族である可能性が高い。
そして虐殺が行われる前に碑文が解かれ、地下貴賓室への通路が開かれていたのはほぼ確実だろう。
また、虐殺が起った時点で電話線が切られていたとすると、バトラの金塊発見宣言は「第一の晩の殺人」計画にGOサインが出された後の事と思われる。


生還後のエヴァの言動を見るに、彼女は100%の被害者ではなく何らかの自責の念を抱く理由か、あるいは明るみに出る事でジョージやヒデヨシの名誉が傷つくような事情の存在が疑われる。

また、バトラが九羽鳥庵でエヴァと共に救出を待たずにヤスと共に逃亡したのには、「精神状態の怪しいヤスが警察の事情聴取でおかしな事を口走ってしまう」可能性を恐れた以外にも、「最早エンジェの前に顔を出せないような事情」のある事が察せられる。


EP8内で暗示されているのは、エンジェにとっては「『キリエが自分を露ほども愛していない』や『両親とバトラが金目当てで他の親族を皆殺しにした』よりも、もっと受け入れがたい惨い事実」だ。

そしてバトラが金蔵と同じ選択をしたとすれば、バトラは「ベアトリーチェ」を救う為に誰かを殺しているはず。

エヴァがバトラを恨んでおらず、エンジェの為に積極的に事実の隠匿に協力している処から判断して、被害者候補は絞られる。そしてその被害者が人として同情に値しないような行動をとったのであろう事情も推測される。


ちなみにルドルフ宛にもヤスからの貸金庫の鍵が3日時点で投函されている。これは「遺族見舞金」なのか「共犯報酬」なのか。

エンジェは親族会議を欠席しがちだったとはいえ、出欠は確実ではない。
ヤスはエンジェ出席の場合のシナリオも用意していたのだろうか。
相手は6歳児なのだから、確実に欠席させるような工作をしたとは考えられないか。エンジェが生きて自宅で受け取るのを前提とした封書が3日の段階で投函されているのだから。

最後の親族会議で、出席予定だったエンジェは直前にお腹を壊し欠席した。事前に源次かクラウス経由で「当主様からの命令で、欠席させるように」と口止めコミで指示されたのでは。
そしてキリエはその事から、何らかの特殊な事態が進行しているのを察知したのでは。



なんにせよ、このシリーズは、実は「魔女ベアトリーチェの物語」ではなく、「右代宮金蔵の物語」なのだと思う。

ビーチェの魂はとうの昔に煉獄に行って金蔵を待っており、転生などしてない。
ベアトリーチェの血脈はあくまで器であり、そこに受け継がされたのは金蔵の妄執。
金蔵の妄執の結晶であるヤスと金蔵の再来であるバトラの戦いと和解、融合に至るまでのドラマなのだ。

そしてその融合した姿が、すべてを知りながらすべてを幻想に閉ざす魔女フェザリーヌ、という事になる。