このページにはビジュアルノヴェル『うみねこのく頃に』『うみねこのく頃に散』のネタバレが記載されています

八城先生の嫌ミス

八城十八による偽書は、表は愛や信頼や勇気に満ち溢れたエンタテインメントだが、裏面はエゴと嘘にまみれたおぞましい物語だ。

EP3 死後も強く結ばれた恋人達、信じあういとこ達
→恋は幻想。嘘と不信で翻弄される人々

EP4 愛と勇気と自己犠牲
→エゴで他人を騙して犠牲にする

EP5 か弱き孤独な女性を守る騎士道
→親切ごかしに孤立無援の女性をハメて追い詰める

ならばEP6も3~5と同様に恐ろしいドラマのはず。

EP6は大体次の3つの物語が絡み合いながら同時進行している

a. 恋人の死を受け入れられない「お館様」は亡き人の肉体を魔法で再生しましたが、失われた記憶は戻りませんでした。

2人は苦しみ、「お館様」は生まれ変わった恋人を亡き人の娘と見なそうと努力しました。しかし愛の力で奇跡が起こり、「娘」は前世の記憶を取り戻して2人は結婚しました。めでたしめでたし。

b. シャノン・カノン・ベアトの3人の家具たちは、魔法の力でニンゲンになって恋をかなえる為に試練に挑みます。

しかし試練の途中でバトラは幽閉され、パートナーを失ったベアトは参加資格を失って脱落。決闘の結果、カノンは死に、シャノンが勝利を収めてジョージと結ばれる権利を得ました。

ところがベアトがバトラを助け出して2人が結婚したので、決闘の結果は不問にされ、3組の恋人たちは全員が黄金郷で結ばれました。めでたしめでたし。

c. 六軒島の親族会議に、例年は存在しなかった『探偵』が参加することになりました。

「当主」は『探偵』をもてなす為に摩訶不思議な不可能殺人の狂言を仕掛けますが、イタズラのはずだった殺人事件が本物になってしまいました。

しかし『探偵』と「当主」が島の真実の滞在者の数について争っている途中で何かが起こり、全てはうやむやになってしまうのでした。 …めでたしめでたし?

a. はクワドリベアトをビーチェの生まれ変わり視した金蔵の妄想を全肯定するような内容。
現実ではこの妄執のせいで多くの人間が不幸になっている。

b. の状況についてはEP7のクレルが「決闘し、決着もつきかけていたのに、バトラが帰還してしまった」巡り会わせについて「運命を呪った」と表現している。
そしてシャノンとカノンは黄金郷で蘇り再会することを肯定的にとらえていない。むしろ決闘の結果どちらかが死ぬことこそを苦しみの終わりと考えている。

c. の顛末の結果、六軒島の滞在者たちは多数が殺害されている。


本編ラストでヱリカとベアバトの間で赤字を使った島の滞在者の人数をめぐる争いがあり、ベアバトが本来の滞在者が計16名と明かしたところで区切りがつく。この後何があったかは描かれないまま本編は終わり、茶会の婚礼場面へと続く。
(ヱリカの「18人目」とベアバトの「そなたを入れても17人」はページビュアーとユニークビジターのようなニュアンスの差が有るので赤字は矛盾しないのか、無理やり真実とは違う赤字を行使したヱリカが論理破綻を起こしてゲーム世界からはじき出されたのかは不明)

黄金郷の殊勲式

茶会でバトラとベアトの婚姻が成立し、黄金郷での殊勲式が始まるのだが…

ここで立ち絵とセリフ付で登場する幻想キャラ以外のメンバーは

バトラ、マリア、ナツヒ、エヴァ、キリエ、ローザ
カノン、シャノン
ジョージ、ジェシカ、クラウス、ルドルフ、ヒデヨシ

…儀式に必要な13人なのだ。

エンドロールで第一の晩の死者と明記されているローザ、マリア、キリエ、エヴァ、ナツヒ、バトラ 。
クロゼット内で消滅し死亡扱いのカノン、人格交代によりチェーンロック密室という永遠の地獄に閉じ込められたシャノン。

全ての死者の蘇る黄金郷において、その死者たちと同じ扱いにされているジョージ、ジェシカ、クラウス、ルドルフ、ヒデヨシは、ミステリサイドにおいては殺害されているのではないだろうか。


地の文では使用人一同や幻想世界の住人たちが殊勲者に拍手を送ったとあるが、EP8盤面のパーティ二次会で、ガァプの「これだけ揃うのはいつ以来かしら?」にベアトは「夏妃の幻想法廷以来ではないか?」と答えている。
つまり、あの地の文は虚偽という事になる。


ベアトは「今回のシナリオは探偵ヱリカをからかうイタズラだった」と推測しているが、それが事実とは確定していない。
死を装ったバトラが狂言殺人を利用して実際に殺しまくるつもりだったのに、ヱリカに先を越されてシナリオを台無しにされたという可能性もある。


駒ベアトのヨリシロとなる肉体は、カノン、シャノンの人格と共にチェーンロック密室に閉じ込められている。
駒ベアトが婚礼を襲撃するのは不可能なので、あれは概念的に再構成したメタベアトなのか?行使は阻まれたものの、ドラノールはあのベアトの存在を否定する赤鍵をベルンから許されているが…

実のところはカノン駒はGMバトラのコントロールで動かされただけで、再構成メタベアトや彼女との結婚は、バトラのゲロカス妄想に過ぎないのか?

愛する人の奇跡の再生は幻想、妄想。あのベアトリーチェは蘇ることはない、永遠に。

鏡よ、鏡

今回、作中で駒たちが自分の恋愛事情について色々語っているが、これはそれぞれの事情に仮託して「ヤスの置かれた状況」を説明しているのだろう。

ジョージやジェシカが語る恋愛にまつわるアレコレは、実際はヤスの心理の鏡像のようなものではないか。
バトラを「19年前の男」と仮定してベアトがナツヒに対して仇討ちを図ったのが、ある種の象徴になっている(そしてこの場面では「鏡」が重要アイテムである)。


テンション高く語られるジェシカからカノンへの恋愛感情は完全なる幻想なのだし、現実のジョージが本当にあのように考えていたのかどうかも、はなはだ怪しい。本当なら、高校生男子が12歳と10歳の子供が趣味の話で盛り上がってるのを見て、本気で『恋愛感情』から嫉妬していた事になる…。

※ ジョージがシャノンに惹かれたきっかけは、バトラに対する対抗意識だった。
シャノンを振り向かせることで自分の男としての価値を確かめたかった。
→バトラにないがしろにされたシャノンは、バトラとは正反対なタイプのジョージとの恋愛に踏み出すことで自分の女としての価値を確かめ、傷ついた心を慰撫したかった。バトラに対する一種の面当て、復讐心がきっかけだった。

ユニセックスな接し方のバトラと対照的に、ジョージは常に自分が「女」である事を意識させてくれる存在でもあった。

※ ジェシカがカノンに惹かれた理由は、自分でも良くわからない。
単に「身近な異性だったから」「シャノンとジョージの恋愛に煽られたから」と言われても反論できない。
→片割れのシャノンが男性のパートナーを得たので、カノンも女性の恋愛対象を得る必要に迫られた。
相手がジェシカなのは「身近な異性であり、バトラやジョージと同じ金蔵の孫である」という条件を備えていたからに過ぎない。他に理由はない。

チェーンロック密室に駆けつけるカノンの独白「彼女は僕の何が好きなのか。僕は彼女の何が好きなのか。それさえも、はっきりさせることが出来なかった気がする」は、「時間が足りなくて、締め切りまでに設定を練りこめなかったわ。テヘ♪ by ヤス」という事だろう。

…となると、バトラのベアトに対する愛と苦悩も、実際はヤスベアトからバトラに向けた感情の鏡像なのでは。

バトラは金蔵の生まれ変わりのはずなのに、かつて愛し合った日々の記憶をなくしてしまった。

バトラが教えていないはずのこと(碑文を解く為の鍵)を思い出してくれたら、それが生まれ変わりの奇跡の証拠。
バトラが前世を思い出したら、2人は今度こそ永遠に結ばれる。


寓話の意味するもの

b. は事件当時にヤスの置かれたジレンマを表したもの
a. はヤスがこの世に生を受けるに至った状況と、バトラを愛する魔女ベアトの誕生という肉体と魂の二つの「ベアトリーチェ誕生秘話」を象徴的に語ったものだが、はたしてそれだけだろうか。


a.b.c.合わせて、86年10月4~5日に現実の六軒島で起こった事をも暗示しているとすると…

現実を受け入れて幻想と決別しようと悲壮な覚悟を決めつつあったヤスの元に、バトラが帰ってきてしまう。
ヤスの中のベアトリーチェはバトラの体をヨリシロとした金蔵の再生と愛の復活を望み、儀式を行う。
バトラは碑文の謎を解き金蔵の後継者となるが、バトラを憎むイレギュラーな人物の介入により惨劇が起こり、全てが幻想に閉ざされる。

…というドラマになるのだが。

(ちなみにEP5、EP6の第一の晩はともに「狂言殺人を指示した者とは別の犯人が、それに乗じて実際の殺人を行う」シナリオ)